秋葉原通り魔事件の映し出す「非連続」
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☆雇用システム研究所メールマガジン☆
第70号
2008/07/01
http://www.koyousystem.jp
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蒸し暑くうっとうしい日が続いております。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。
雇用システム研究所メールマガジン第70号をお送りします。
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□ 目次
秋葉原通り魔事件の映し出す「非連続」
■増殖する若年者の「うっすらとした憎しみ」
■就職氷河期の雇用控えで将来の生活保護予備群77万人
(以上執筆者 福島敏之)
■研修、技能実習制度で改正案が乱立
■影響大きい“長勢私案”
(以上執筆者 津山 勝四郎)
■[編集後記](編集長 白石多賀子)
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秋葉原通り魔事件の映し出す「非連続」
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日本はもはや安全ではない。誰もがそう思ったことでしょう。先月8日の東京・秋葉原で起きた史上最悪の通り魔事件。25歳の若者が、猛スピードのトラックで歩行者天国に突っ込み、殺傷用ナイフで手当たり次第に人を刺し回り ました。「世の中が嫌になった」「誰でもよかった」との理由で…。
この凶行により、7人の人生が幕を閉じました。ある人は生涯最大級の驚愕の中で、ある人は絶体絶命の恐怖に憑りつかれたままに。家族や友人ら共に生きる人は、当たり前の日常を突如漆黒に塗りつぶされました。想像だにできない痛ましさです…。
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■■■ 増殖する若年者の「うっすらとした憎しみ」 ■■■
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犯人は派遣労働者として、国内最大手の系列に属する自動車メーカーに勤務していました。6月末には派遣社員の4分の3をリストラする方針を同メーカーは通告していたそうです。本人はリストラ対象ではないことを告げられたそうですが、いつ暮らしの基盤が喪失するか知れない薄氷の状態でした。
犯人は事件前、掲示板にモノローグのごとく自虐と絶望と呪詛の書き込みを常習的に繰り返していました。
「勝ち組はみんな死ねばいい」
とも書いていました。
事件後。それらの書き込みに接した若者から、次のような共感の声が。
「やったことはいけないがそうなった気持ちはわかる」
「夢も希望も無い若者が、生きていてもしょうがないと絶望して社会への復讐に走る、それは仕方がないことではないだろうか?」
実際、感化された(?)若者らがネットに類似の犯行予告を書き込み、6月24日時点で17人が検挙・補導されたそうです。実に1日1件というペースです。
そういえば、中央公論2008年4月号において、『戦後初めて、若者が路上に放り出される時代』と題する対談記事で、作家の雨宮処凛氏が次のようなコメントをしていたばかりでした。
「フリーターを使い捨てていく中で、うっすらとした憎しみがものすごい勢いで広がっている。後々には大きな影響を及ぼすと思いますが、気にもとめていないような企業の傲慢な態度には驚かざるを得ない。働く人の3人に1人が非正規雇用なのに。危ういなと思って…」。
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■■■ 就職氷河期の雇用控えで将来の生活保護予備群77万人 ■■■
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この4月、シンクタンクの総合研究開発機構がショッキングな推計を示しています。将来老年に達した際に生活保護を受ける可能性がある現在進行形のフリーターとニートが、いわゆる就職氷河期における企業の雇用控えによって、「77万4000人」も量産されたというのです。
それ以前の世代は、おしなべて、学卒後に職を得てスキルを蓄積し、社会的地位を得、家庭を築いて、資産を形成してきました(それが「標準的な」ライフサイクルであるとされてきました)。
それに引き換え、まともに学校を出たにもかかわらず、不安定な職への就業 (あるいは就業できずに無業)を余儀なくされた若年者たち。
この決定的な非連続をどう見たらいいのでしょうか。
先の総合研究開発機構の試算によると、仮に将来その77万4000人が老後に生活保護を死ぬまで受け続けた場合、その費用(保護費)は累積で約20兆円にのぼるのだそうです。
この追加費用は、主に今から40年後の現役世代へとツケ回しされます。
おそらくは既に約3人に1人が65歳以上という時代。経済のグローバル化に伴う競争激化が社会をどのように変容させているかも不明な時代に、です。
とても現実的とは思えません…。
いま社会保障に関しては、「後期高齢者医療制度」が問題になっていますが、それすら霞んでしまうほどの驚愕の液状化が進行中であるということを、今を生きる者として正視する必要があります…。
* *
蛇足ですが、いかに就職氷河期に若年者の雇用が絞り込まれたといっても、それが秋葉原事件を正当化する理由には断じてなりません。
それでも、安定雇用を持つ者と持たざる者の間の「非連続」が、社会的な負の感情(不公正感、閉塞感、厭世観等)を増幅させ、将来に深刻な影を落としているのは確かです。
社会として、何をどうすればいいのか。本腰を入れた検討が必要でしょう。
(福島敏之)
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■■■ 研修、技能実習制度で改正案が乱立 ■■■
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産業界に浸透してきた外国人研修・技能実習制度については、人数は引き続き増加しており、平成19年の在留資格「研修」入国者数は政府関係機関による受入れも含めて約10万2千人、そのうち技能実習移行者数は約5万4千人となり、技能実習中の者が10万人近くにのぼり、研修生・実習生合わせると約20万の規模に達してきた。
国籍では中国79.4%、
ベトナム7.7%、
インドネシア6.1%、
フィリピン4.5%、
タイ1.5%など。
一方で、制度発足以来、一部の受入れ機関において研修生が実質的に低賃金労働者として扱われていたり、研修中の残業(研修時間外の活動)やいわゆる「飛ばし」といわれる名義貸し、パスポートの取上げなどの不正行為が頻発し、関係行政機関や(財)国際研修協力機構(JITCO、厚労省と経産省と法務省が共管の団体)で規制強化すると同時に、実務研修中の研修生の法的保護の在り方については、経済財政諮問会議だけでなく産業界、労働界からも制度の適正化や見直しを求める意見が相次いで出てきた。
まず厚生労働省が6月13日に研究会報告をまとめ、悪質な企業や団体を排除する一方、優良な企業や団体を育成する観点から、
【1】研修(1年)プラス技能実習(2年)
については、最初から雇用関係の下での3年間の実習とすることで労働関係法令の適用を図る、
【2】受入れ団体については、実習支援の実施を担保するために許可制を導入する、
【3】あっせん機関についても許可制を導入するとともに、送出し国政府に対し保証金などを要請することで送出し機関の適正化を図る、などの見直しを行うことを盛り込んでいる。
また、実習の実効性確保として、現行の技能検定3級レベル以上の技能修得に向けて、受入れ団体が企業の実習を指導、支援する役割を担い、3級レベル以上の受験の義務づけと合格率が高い企業に対する優遇制度の導入を提案するとともに、受入れ人数についても、事業主以外は全て研修生・実習生といった例をなくするため(現行は日本人50人未満の常用に対して3人まで受入れ可能なことから、3年間で9人まで受入れることができる)、事業場単位の制限も導入する。
さらに、適正な実習実施や雇用管理・労働条件を定めたガイドラインを策定し、助言・指導、勧告を経て、悪質な受入れ企業については、入国管理局と連携した受入れ停止の措置、許可取消しの制度の導入も想定している。
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■■■ 影響大きい“長勢私案” ■■■
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これに対し、どちらかというと産業側の視点に立つ規制改革会議や経済産業省の研修会の改正内容は、制度の趣旨や目的が途上国への技能移転を目的とした国際貢献にあることから制度運用の適正化・厳格化を前提としているが、むしろ充実させる方向を打ち出している。
産業界の意図が、労働力確保(チープ・レーバー?)にあることは言うまでもない。例えば、繊維、水産加工、農業などの産業や、下請けに代表される機械・金属などのものづくり分野において、日本の教育訓練機関がサービス系に偏り、労働力需給のミスマッチが生じてきており、研修・技能実習という視点だけでなく、中長期的な労働政策や産業政策を含んだ総合的な議論が必要であろう。
ところで、行政府の考え方とは別に、昨年5月に、当時法務大臣であった自民党の長勢代議士が出した「外国人労働者受入れに関する検討の指示について」が、現在自民党のPTで精力的に検討されている。
長勢氏は昭和41年労働省入省のキャリアから政界転出。法務大臣の時に私案を側近に文章を入力させることなく、全く極秘に突然に出してきた。
現在は自民党の雇用・生活調査会(労働行政の行方に最大の影響を及ぼす)の会長。
また、第7次社会保険労務士法改正では、厚生労働省と法務省、全国社会保険労務士会連合会と日本弁護士連合会の折衡をまとめたことは関係者には知られている。
長勢私案は、要旨、
(1)受入れの目的を現行の国際技能移転に限定せず、国内で必要な労働力確保
に転換する、
(2)受入れ対象者、受入れ企業について、形式的な業種・職種、技能能力などの区分を行わない、
(3)長期滞在、定住につながらない、
(4)劣悪、低賃金は認めない、
(5)受入数などは我が国の労働市場に悪影響のないものとする、
(6)入管などの事務負担が過大にならない、
の6項目を基本的考え方としている。
具体的には、
受入れ団体は許可制として人的、資金的規模で受入れ枠を設定し、外国人の就労希望と国内企業に雇用契約を締結させる受入れ団体は雇用企業とともに外国人労働者の入国・在留管理、雇用管理について責任を負う、外国人の就労期間は3年とし再就労は認めない、以上により現行の技能実習制度は廃止し、研修制度のみ見直した上で存続させる、との仕組みを提案している。
いわば厚労、経産、法務3省を観た私案と言えるが、
現在は私案発表時の法務大臣という枠がなくなっているだけに、まもなくまとまる自民党PTの報告が注目され、来年の通常国会での改正がその内容に沿って進められることは間違いない。
東京都内は未だ日本人労働者の求人で労働市場が構成されているが、愛知、岐阜、茨城、広島などの地域は、外国人の研修・技能実習生の存在抜きで、生産現場の運用が考えられなくなっている。それでも不足するから、そこに不法就労者が生まれることになる。
(津山 勝四郎)
編┃集┃後┃記┃
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6月2日の日経新聞朝刊に「高齢者雇用 日韓アンケート」が掲載されおり、高年齢者の活用法に相違がありました。
日本では、団塊世代の大量退職で人手不足が深刻化し、高年齢者雇用安定法の改正で、厚生年金の定額部分の支給開始年齢の引き上げに合わせて65歳までの雇用確保が義務づけられました。
雇用の仕方としては、
(1)65歳まで定年を引き上げる、
(2)65歳までの継続雇用制度を導入する、
(3)定年制を廃止するの中から選択になりましたが、多くの企業が再雇用制度を導入しています。再雇用制度の導入目的は、定年前より賃金水準を低く抑えられてコスト負担が少ないためです。
一方の韓国では、再雇用制度の導入率が低く、定年延長が主流とのことです。
定年延長は再雇用に比べ企業のコスト負担は増しますが、優秀な高齢者社員をつなぎ留められる効果があるのと、韓国の企業の定年が55歳前後で定年の延長が行いやすい事情もあるようです。
また、儒教的な価値観が強いため「再雇用に伴う地位の逆転には、上司、部下ともにかなりの抵抗感がある」とのことです。
アンケート結果には、日韓の仕事に対する考え方の違いが表れているとのことですが、横浜市立大学准教授の鞠重鎬氏によると「韓国のビジネスマンは転職に抵抗感が少なく、退職後は会社に頼らず自営業をはじめる人も多い」と指摘しています。
以前、韓国留学生が「30代後半になると会社に残るか自立するかの決断に迫られる」と話していました。会社に残り役員としての将来が約束される可能性が低いなら自立する道を歩むそうです。
韓国では日本の団塊世代に相当する世代が日本より10年ほど後に生まれており、大量退職も10年後と見られています。
韓国の社会保障制度は日本を参考にしており、私たち社会保険労務士制度も「公認労務士制度」としてあります。
今回の編集後記は、長文になり申し訳ございません。
(白石)
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発行者 雇用システム研究所 代表 白石多賀子
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