経営の“落とし穴”(12)〜大震災が残した教訓(2)〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏━━┓
┃\/┃ ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛ 第111号
2011/07/01
http://www.koyousystem.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
毎日蒸し暑い日が続きます。
節電が叫ばれる中、いかがお過ごしですか。
くれぐれもお身体をお大事にお過ごし下さいませ。
雇用システム研究所メールマガジン第111号をお送りします。
==========================================================================
□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥
◆ 経営の“落とし穴”(12)〜大震災が残した教訓(2)〜
■業務継続でホテルの部屋を確保
■自宅待機中の派遣社員の処遇
■帰国後、退職した外国人社員
■給与振込手続きに忙殺
(以上執筆者 溝上 憲文)
■待ったなし! 企業のメンタルヘルス対策
■半数の企業が精神障害発症を懸念
■労災補償請求件数も過去最高
(以上執筆者 日本労働ペンクラブ 津山 勝四郎)
■[編集後記] (編集長 白石 多賀子)
==========================================================================
◆ 経営の“落とし穴”(12)〜大震災が残した教訓 (2)〜
東日本大震災では、各社が想定していなかった事態が次々と発生した。
一歩間違えば従業員の安全や事業の継続に支障を来すことにもなりかねない。
今回は計画停電が始まった3月14日以降の各社のとった行動を検証してみたい。
==========================================================================
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 業務継続でホテルの部屋を確保 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1つは計画停電による鉄道の運行支障への対応である。
3月14日の早朝から鉄道のダイヤは大幅に乱れた。
大手IT企業は早朝の危機対策本部の会議で、15日から連休前の18日金曜日までを原則自宅待機とした。ただし、顧客など外部の対応にどうしても必要な部署は輪番制で
出勤することも可とした。自宅待機の社員については、100%の休業補償をすることにした。
同社の人事部長は「事業に支障を来す社員は自宅待機期間中でも上司の承認があれば出社してもよいことにした。人事部は管理職以上の社員が交代で出社したが、他の部署も管理職の間で当番を決めたようだ」と語る。
逆に業務継続を実施したのは金融業。業務に必要な最低限の人数は250人。
まず、派遣スタッフを含めた全従業員の交通経路を洗い出し、通勤が無理な人、
自宅からの通勤が可能な人を調べて通勤可能な人を200人確保。
だが、業務に必要な要員が50人足りない。そのため、ホテルに60室の部屋を1週間分予約し、
ホテルから通勤させることにしたという。
問題になったのは通勤できない人の処遇である。
交通機関が継続して麻痺した場合のルールは想定していなかった。
緊急用の勤怠ルールを新たに練り直し、自宅待機者は勤務扱いにすることにした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 自宅待機中の派遣社員の処遇 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ただし、勤務扱いは正規社員のみとした。雇用主の異なる派遣社員については、
ノーワークノーペイの原則により通勤不可能な人は対価を支払わないことにした。
だが、同社の考え方に対し、数社の派遣会社が自宅待機の派遣スタッフについても
支払うように求めてきた。自宅待機が業務指示なのかどうかを巡ってかなり揉めたという。
同社の人事課長は「もちろん通勤できる人には支払うが、通勤不可能な人には払わない
整理をした。しかし、派遣元には業務指示であり、払うべきだと主張するところもあり、
先方に直接会って<交通機関が全部止まっているわけではなく、通勤できる人と
通勤できない人がいる。通勤できない人には一人ひとり個別に出勤は無理だということを
確認しており、問題はない>と説明し、最終的に納得してもらった」と語る。
IT企業も派遣社員については対価を支払わないことにしたが、正社員に休業補償をするなら
派遣社員もそうすべきと主張する派遣会社もあった。
それに対して人事部長は
「雇用者は派遣元であること、もう一つは、法的には今回の事態は会社の都合ではなく、
避けられない不可抗力であること」を理由に突っぱねた。
しかし、派遣会社が納得せず、双方が弁護士を立てて不可抗力か否かを巡って今も揉めている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 帰国後、退職した外国人社員 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2つ目は外国人社員への対応だ。大震災と原発事故の情報は世界中を駆けめぐり、
在日外国人の家族や知人から一刻も早く帰国を促す連絡が相次いだ。
IT企業には100人近くの外国人社員がいるが、外国人に限定し、
14日から5日間の特別休暇を付与する特例措置を設けた。
すでに地震の翌日に帰国する社員もいた。渡航費用は支給しないが、
中国などのアジア諸国をはじめアメリカ、ロシアなどに帰国する社員もいた。
外国人の社員の3分の2が帰国を含めて東京から避難したという。
「22日から通常勤務となるが、もう少し家族と一緒にいたいという場合、
22日以降は休職扱いとした。22日にはそのうち8割の社員が出勤し、残りも順次戻ってきたが、
複数の社員が退職する事態になった」(人事部長)という。
3つ目は採用活動の一時停止である。
IT企業は3月11日までに、新卒の一時面接はすでにスタートしていたが休止した。
理由は交通事情で面接に出席できない学生に不利になること、もう一つは、
震災の大変なときに採用活動をしているというネットに中傷する書き込みもあり、
15日の時点で中止を決定。4月中旬以降に再開したという。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 給与振込手続きに忙殺 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
4つ目は、3月15日に発生したみずほ銀行のシステム故障による振込口座とATMの停止だ。
IT企業はすでに給与処理は終わっていた。
そのため、みずほ銀行を給与口座に指定している社員に対し、当面のやり繰りに必要な
資金として10万円を貸し出し、翌月の給与で天引きすることに決めたという。
一方、建材メーカーは振込口座の変更手続きに忙殺された。
会社に届けているローンなどの第2口座への振込先の変更、あるいは他の口座への
変更手続きを人事が一人ひとりの社員と連絡を取りながら変更手続きを完了したという。
5つ目は、3月17日の木曜日。海江田万里経済産業大臣が午後、電力需要が供給量に迫り、
大規模停電が起きる恐れがあると発表したことへの対応である。
多くの企業は社員を早く帰宅させるなどの対応をとったが、
金融業の場合は、コンピュータシステムの対応に追われた。
「心臓部のコンピュータシステムがいったん停止するとデータの誤作動が発生する恐れがある。
東京にはシステム対応部隊はいないので、関西本社に連絡を取り、急遽、新幹線で
東京に来てもらい、全員がホテルで待機し、いざという時に備えた」(人事課長)
大震災と原発事故では想定されない突発的事態が相次いで起こった。
多くの企業がBCP(事業継続計画)の見直しに着手している。
どんな課題があるのか、次回で紹介したい。
(溝上 憲文)
==========================================================================
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 待ったなし! 企業のメンタルヘルス対策 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
厚生労働省が5月末にまとめた「平成22年度個別労働紛争解決制度施行状況」によると、
全国の民事上の個別労働紛争相談件数24万7000件のうち、
例年トップとなる「解雇」事案は平成22年度もトップで21.2%を占めているが、
「いじめ・嫌がらせ」案件が13.9%を占め、年々増加している。
その結果、都道府県労働局長による助言・指導が13.3%、
調整委員のよるあっせんでは14.4%を占め、ここでも増加している。
ちなみに、両方とも申出人の99%前後が労働者からで、事業所の規模小規模で多く、
労働組合のない事業所の労働者が7割前後となっている。
また、中央労働委員会が全国44の都道府県労働委員会における同じ調査によると、
相談・助言まで進んだ2123件のうち、職場の人間関係における事案が
255件(セクハラ26件、パワハラ・嫌がらせ229件)と、ここでも年々増加し、
あっせん総数659件のうち、職場の人間関係における事案は46件(セクハラ6件、
パワハラ・嫌がらせ40件)で5年前の2.5倍になっている。
もう一つ、東京労働局の調査においても、労働局長による助言、指導484事案のうち、
いじめ・嫌がらせが58件で12.0%、あっせん事案1203件のうち、あっせん合意が
成立した505件のうち、いじめ・嫌がらせが9.3%に達した。
考えてみれば、これらの事案は行政に届ける“勇気”を持った労働者によって、
いわば白日の下に公けにした件数であり、多くの労働者がどうしてよいかわからず、
1人で考え込み、悩んだ後にうつ病などの精神疾患を発症し、退社、休職に
追い込まれる事案は相当数あると思われる。厚生労働省の資料によれば、
我が国全体の自殺者3万人超のうち、「勤務問題」が原因の一つとなっている人は
約2500人で約6割の労働者が仕事や職業生活に強いストレスを感じているという。
原因は色々あげられ、企業側、労働側両方にあるとされるが、多様化する雇用形態、
長時間労働と過重労働に大きな要因があることは論を持たない。
メンタルヘルス対策は今や企業規模を問わず、人事労務施策の重点項目となってきた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 半数の企業が精神障害発症を懸念 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
東京労働局が6月にまとめた「従業員の健康管理等に関するアンケート」によると、
過去3年程度に過重労働の有無にかかわらず精神障害の発症例があった企業は85.8%、
発症例がなくても今後の発症を懸念している企業が76.7%、
過重労働が関連した精神障害の発症を懸念している企業は減少しつつあるが、
それでもなお49.1%ある。
企業はそれなりに対応策を実施しており、健康診断の完全実施、労働時間、
労働密度など心身の過重負荷要因の改善などに取り組んで、メンタルヘルス対策の指針の
周知を図ったりしているが、一方で、衛生委員会などで調査審議したことがない企業が
5社に1社、心の健康づくり計画を策定している企業は24.2%、
職場復帰支援プログラムを策定している企業は39.7%でしかない。
日本一の企業戦場である東京都の300人以上規模にしてこの調査結果なのだから、
あとは推して知るべし
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 労災補償請求件数も過去最高 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
厚生労働省もう1つのデータ「平成22年度脳・心臓疾患および精神障害などの
労災補償状況まとめ」によると、精神障害などによる労災補償請求件数は1181件で過去最高。
業種別では、製造業207件、卸売・小売業198件、医療・福祉170件で多く、
この分野での長時間労働、過密労働がうかがわれる(厚労省労働基準局補償課)。
年齢別では30〜39歳が390件、40〜49歳が326件、20〜29歳が225件で、
若年層は別に 30代、40代の中間層の発症率が高いのは、
この層に過重労働が課せられているのではないか(同上)と分析している。
精神障害等の出来事を具体的にみると、仕事の失敗、過重な責任の発生等において、
決定件数をみると、「重大な仕事のミス」19件、
「会社で起きた事故で責任を問われた」22件と多く、
なかには「違法行為を強要された」、「達成困難なノルマが課された」など、
明らかに会社例によるストレス供与が原因となる出来事もあった。
その他「仕事内容・仕事量の大きな変化」113件、
「勤務・拘束時間の長時間化」38件、「退職の強要」26件、
「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行」58件、「セクハラ」27件、
「上司とのトラブル」187件、
「同僚とのトラブル」34件、なども人事労務管理上、特に上司の役割は非常に大きい。
問題を労働者側の弱さにすることは簡単。
そんな企業ほど、本音のところでは早く退職して欲しいと考え、そのための法的知識、
手続きを当事者抜きで考えている企業・担当者がいかに多いことか。
企業のメンタルヘルス対策は今や待ったなしで、組織の活性化のため避けて通れなくなってきた。
(津山 勝四郎)
編┃集┃後┃記┃
━┛━┛━┛━┛***********************************************************
6月1日の衣替えで、環境省は“スーパークールビズ”をスタートさせました。
環境省では、地球温暖化対策として6年前より“クールビス”を実施し、
今回の震災による節電対策として、さらに進化させた“スーパークールビズ”を他の省庁や
民間企業にアピールしました。
当日のニュースでは、ポロシャツ、アロハシャツや七分丈パンツで
登庁する職員の姿が放送されました。
特に、赤のアロハシャツで登庁した職員の姿は印象が強く、今でも鮮明に覚えています。
お客様から暑さ対策の服装相談があるときに話題にしています。
(民間企業の反応は仕事で着る服装ではないようです。)
この映像をご覧になった方は、どのようなご意見をお持ちでしょうか・・・。
なお、環境省の“スーパークールビズ”が、
海外で賛否が割れている記事が6月27日の朝日新聞に掲載されていました。
企業は、就業環境の中で予想される生命、身体の危険から労働者を守る安全配慮の
義務があります。室内温度や屋外作業には十分注意し、
休憩回数を増やすなどの対策を立てましょう。
また、熱中対策グッズとして、水に濡らすと涼しさを感じる“マジックタオル”や、
睡眠をサポートする“低反発冷却ジェルシート”等が販売され売れています。
少しでも涼しさを感じるよう創意工夫をして、この夏を乗り切りましょう。
皆様のご健勝を祈念申し上げます。
(白石)
------------- ☆ ☆ ☆ --------------
発行者 雇用システム研究所 代表 白石多賀子
東京都新宿区新小川町9番5号畑戸ビル
アドレス:info@koyousystem.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今週のメールマガジン第111号はいかがだったでしょうか。
お楽しみいただければ幸いです。今後もさらに内容充実していきたいと
思います。
ご感想は info@koyousystem.jp にお願いします。
「こんな記事が読みたい!」というリクエストも、遠慮なくどうぞ。
次回の配信は8月初旬頃情報を送らせて頂きます。
e-mail: info@koyousystem.jp
[過去のメルマガ随時更新] http://www.koyousystem.jp
=================================================================
メールマガジンの配信が不要な方は、お手数ですが、
こちら http://www.koyousystem.jp/mail_magazine.html から
配信停止を行って下さい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・『雇用システム研究所メールマガジン』に掲載された情報を許可なく転載す
ることを禁じます。
|