「組織を変え、人を変える」意識改革運動(2)
〜富士ゼロックスの企業風土改革運動(上)〜
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┃\/┃ ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛ 第125号
2012/09/01
http://www.koyousystem.jp
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残暑の中にも時折、秋の気配を感じる頃となりました。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
雇用システム研究所メールマガジン第125号をお送りします。
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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥
◆ 「組織を変え、人を変える」意識改革運動(2)
〜富士ゼロックスの企業風土改革運動(上)〜
■「やさしい会社」から成長と変化に挑む社員へ
■間接部門の社員を営業部門に配置転換
■降格制度と転進制度による若返り策
(以上執筆者 溝上 憲文)
■パ−トタイム労働者の労働契約更新は平均で8.8回
■改正労働契約法に基づきパ−トタイム労働法も改正へ
(以上執筆者 日本労働ペンクラブ 津山 勝四郎)
■[編集後記] (編集長 白石 多賀子)
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◆「組織を変え、人を変える」意識改革運動(2)
富士ゼロックスの企業風土改革運動(上)〜
ビジネス環境の変化により業績が低迷し、部門の統廃合など全社的な構造改革に着手する企業が少なくないが、それだけでは会社は変わらない。
事業構造改革と並んで重要なのが、会社の体質や社員の働き方の変革を促す
意識改革運動である。
組織競争力や事業競争力を強化するためにどのような意識改革の取り組みをしているのか。
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■■■ 「やさしい会社」から成長と変化に挑む社員へ ■■■
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第2回目は富士ゼロックスの企業風土改革運動を取り上げたい。
同社は“人を育てる”ことを基軸に斬新な人事制度を展開してきた会社として有名だ。
人材育成の原点と言えるのが1992年に当時の小林陽太郎会長が打ち出した
「よい会社」構想だ。
よい会社とは「強い」「やさしい」「おもしろい」の3つの要素からなり、
強いは高い成長力と収益性、やさしいは環境への配慮や地域貢献を意味している。
しかし、それから20年。
「昨今の悩みは、やさしい会社の解釈が社員に対してもやさしいと受け取られる
ようになってしまった。そうではなく今は何より強い会社にしていくための体質の
転換を図らなければならない」(人事担当者)
ということも風土改革の遠因になっている。
加えて、この10年間の売上高は大きく伸びていない。
そこで持続的な成長を実現するために、体質の転換と抜本的に仕事のやり方を変革し、
成長と変化に挑む社員を増やしていくのが企業風土改革運動の最大の狙いである。
同社の企業風土改革は、03年以降、現在まで10年間にわたって続いている。
大きく分けて前半は大胆な事業・組織構造改革と人事制度改革であり、
後半が意識改革運動である。
言うまでもなく、目に見える具体的な改革なくして意識改革などはできない。
今回は構造改革の中身を中心に紹介したい。
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■■■ 間接部門の社員を営業部門に配置転換 ■■■
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03年から始まった全社構造改革は大胆なものだ。
組織・人事面では約400の部門の半数を削減し、200人の部門長を降格したほか、
13に分かれていた職階を大幅に削減し、組織のフラット化を断行した。
さらに09年には生産開発部門を含む非営業職の間接部門の人員約2400人を
営業現場に配置転換し、従来の複写機の販売からソリューションの提案営業型への
転換を推進した。10年には4つの開発と生産部門の子会社を2社に再編・統合し、
同時に本社の開発機能の一部を子会社に移し、社員を転籍させている。
部門の再編・強化に伴う社員の大幅な異動は当然、摩擦も生じる。
営業部門に配置転換された間接部門の社員の中には業務が合わないという理由で
会社を去った者も少なからずいたという。
人事面で見逃せないのが06年以来の報酬制度の抜本的見直しだ。
同社は1999年に職能等級制度から「役割グレード」制度に変えている。
しかし、実際は「現場サイドでは『彼はグレード5で2年ぐらいやったからそろそろ
6にしてあげてもいいんじゃないか』という運用になってしまい、
結局、職能等級の運用に近いものになってしまった」(人事担当者)
という反省があった。
06年改革では社員の階層を大きく
「職能層」「リーダー役割」「管理・専門役割」の三つに区分。
リーダーは管理職手前の係長職に相当し、リーダーから役割グレード制に移行する。
管理役割はいわゆるライン管理職を指し、専門役割は直属の部下を持たない専門職。
そして賃金構造の見直しでは、管理・専門役割とリーダー役割の社員については
従来の家族手当と住宅手当および住宅補助手当などの生活関連手当を廃止した。
同時に給与についても従来の月給は生活給の要素が強い「本人給」と「役割給」で
構成されていたが、本人給を廃止し、役割給に一本化した。
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■■■ 降格制度と転進制度による若返り策 ■■■
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さらに管理職層については降格も発生する「役割任用審査制度」(任用レビュー)
を導入した。具体的には管理役割の任用レビューは、同僚・部下による多面評価と
行動評価、それに業績評価も加味して判断される。
「多面評価ではマネジメントの仕事をしっかりやっているかどうかを見る。
行動評価や業績評価を見て一定の水準に達していないと思われる社員については、
上司の指導を経て任用解除(降格)になる。いきなり任用解除することはなく、
最初は指導する。サッカーのイエローカードと同じように指導しても2年連続で
悪い評価が続いた場合は退場させる仕組みだ」(人事担当者)
任用レビューのもう一つの狙いは若手社員の登用である。
同社は社員の高齢化が進み、平均的な課長の昇進年齢は45歳と高い。
降格制度の導入でマネージャーの任用年齢をもっと早くしたいという思いがある。
管理職の若返り策のもう一つの仕組みが2013年4月から実施する
「後進育成制度」だ。
役職者が57歳になるまでに自分のポストにふさわしい後継者を育成し、
自らは転進するというもの。
「57歳になったら現在のポジションから外れてもらう。ただし、最初から57歳で
始めると一挙にいなくなってしまうので、当初は59歳からスタートし、
1歳ずつ前倒し3年後に57歳にもっていきたい。
これによって管理職の任用枠は従来の1.5倍に拡大する。
管理職にふさわしい若い人に就いてもらい、活躍する機会を増やしていきたい」
(人事担当者)
一連の改革は従来の組織・人事制度を一新するものであり、
当然ながら社員にとっては痛みを伴う。この改革の意義を理解してもらうと同時に、
社員自ら成長と変化に挑むようにするのが意識改革運動である。
その内容については次回に紹介したい。 (溝上 憲文)
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■■■ パ−トタイム労働者の労働契約更新は平均で8.8回 ■■■
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厚生労働省が8月23日に公表した
「平成23年パ−トタイム労働者総合実態調査(個人調査)」は、
平成19年に改正され、平成20年4月1日に施行された改正パ−トタイム労働法
の施行後の状況を明らかにしている(調査対象事業所回答事業所の1万0235人が回答)。
平成23年6月1日現在の「正社員以外の労働者」の割合は34.4%
(平成18年の前回調査では30.9%)で、うちパ−トタイム労働者は27.0%
(同25.7%)となっており、いずれも上昇している。
男女別では、男では「正社員以外の労働者」は20.3%(同15.7%)、
うちパ−トタイム労働者は13.8%(同11.4%)、
女では「正社員以外の労働者」は54.4%(同52.5%)、
うちパ−トタイム労働者は45.9%(同46.2%)で男でいずれも上昇している。
今回初めての調査として、正社員の経験の有無を調査しているが、
「経験がある」が75.3%で男女別では男が66.0%、女が79.3%となっており、
年齢階級別では、20〜24歳が「経験がある」が20.8%でしかないのに比べ、
35歳以上ではどの年齢階級別においても8割を超えている。
また、雇用期間の定めの有無、雇用契約期間をみると、
「雇用期間の定めがない」のは43.2%で、産業別では、宿泊業、飲食サ−ビス業を除き、
「雇用期間の定めがある」割合の方が高くなっている。
雇用期間の定めがあるパ−トタイム労働者の雇用契約期間別の割合では、
「12か月」が49.8%、「6か月」が31.4%で、1人あたりの平均雇用期間は
10.3月となっている。
さらに、新規調査として、労働契約の更新状況も調査しているが、
雇用期間の定めがあるパ−トタイム労働者の現在の労働契約の更新状況は
「初回(更新しない)」が9.4%に対して、87.8%が「更新した」と回答しており、
更新回数では、1回10.8%、2回13.4%、3回8.3%、4回以上62.3%で、
平均更新回数は8.8回となっており、産業別では、情報通信業10.7回、卸売業、
小売業10.7回、金融業、保険業10.2回、製造業10.1回で、産業別で
更新回数が一番少ない電気・ガス・熱供給・水道業でも4.9回の平均更新回数となっている。
今国会で成立した「労働契約法の一部を改正する法律」では、有期労働契約における
「雇止め法理」の法定化とともに、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、
労働者の申込みにより、従前と同一の労働条件で無期労働契約に転換させる仕組みが導入され、
有期契約労働者の労働条件が、期間に定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と
相違する場合は、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲などを考慮して、
不合理であってはならない、の3項目が法定化されただけに、
事業主はパ−トタイム労働者を含む有期契約労働者への処遇改善に配慮しなければならなくなる。
「今までも慣例で何の不都合もなかった。」という論理では、
いくら強行法ではない労働契約法の施行といっても、経営倫理が問われることになる。
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■■■ 改正労働契約法に基づきパ−トタイム労働法も改正へ ■■■
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もう少し調査結果を追う。
同じ内容の業務を行っている正社員の有無では、
「同じ内容の業務を行っている正社員がいる」が48.9%で、
「いない」が46.6%と拮抗しており、
同じ内容の業務を行っているパ−トタイム労働者と
「責任の重さが同じである正社員がいる」が36.0%、と3人に1人となっている。
一方で、同じ内容の業務を行っている正社員と比較した賃金水準についての
意識別のパ−トタイム労働者の割合をみると、
「正社員より賃金水準は低いが、納得している」が42.5%で最も高く、
「納得していない」の23.1%を大きく上回っているが、
「わからない(考えたことがない)」パ−トタイム労働者が27.6%もいることは、
この数値のなかに(考えたくもない)というパ−トタイム労働者の存在に留意しとくべきであろう。
採用時における昇給・賞与・退職金の有無についての説明方法では、
「書面で明示」が50.0%、「口頭で説明」は26.4%、
「明示や説明がなかった」が21.5%となっている。
いずれも事業所規模が小さくなるにつれパ−トタイム労働者にとって
不利となっている実態が明らかになっている。
今後の働き方の希望でも、「パ−トを続けたい」が71.6%と高く、
「正社員になりたい」が22.0%でしかなく、世間で大きな声で出る
「正社員になれないから、仕方なくパ−トで働いている」いう糾弾は、
少なくともこの調査では的を得ていない。
厚生労働省は現行のパ−トタイム労働法を改正すべく、既に労働政策審議会が
改正内容を「建議」として厚生労働大臣に提出している。
改正は、パ−トタイム労働法第8条における均等・均衡待遇の確保として、
改正労働契約法の成立、施行を念頭に、いわゆる3要件から無期労働契約要件を
削除するとともに、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して
不合理な相違は認められないことを法制化し、職務内容が通常の労働者と同一で、
人材活用の仕組みが通常の労働者と少なくとも一定期間同一である
パ−トタイム労働者についての賃金決定を同一の方法による決定とすることが
努力義務とされていたことも削除される。
また、パ−トタイム労働者の雇用管理の改善に関する措置は、
雇入れ時等に説明しなければならない。
前出調査の「明示や説明がなかった」ではすまない。
厚生労働省は混乱する政局の動向で、改正パ−トタイム労働法の国会提出時期を
模索しているが,政局が少しでも安定した来年の次期通常国会での改正審議を
目論んでおり、平成25年度の重点事項として、
【ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)】の実現
の1項目として非正規雇用の労働者の雇用の安定・処遇の改善を掲げ、
成立した場合の改正パ−トタイム労働法に基づく的確な指導、専門家による
相談・援助や、職務分析・職務評価の導入支援やパ−トタイム労働者の
雇用管理改善モデル事業を実施する。 (津山 勝四郎)
編┃集┃後┃記┃
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2012年本屋大賞第1位の三浦しをん著書の「舟を編む」の中に、
製紙会社に勤める宮本が、
『紙の色味や触感を言語化して開発担当者に伝えるのは、とても難しい。
だけど話しあいを重ね、お互いの認識がぴったりと一致して、
思い描いたとおりの紙が漉きあがったときの喜びは、
なににも替えがたいです。』 と語る。
それを聴いた辞書編集者の岸辺は、
「なにかを生みだすためには、言葉がいる。はるか昔に地球上を覆っていた
という、生命が誕生するまえの海を想像した。
混沌とし、ただ蠢くばかりだった濃厚な液体を。
ひとのなかにも、同じような海がある。そこに言葉という落雷があってはじめて、
すべては生まれてくる。
愛も、心も。言葉によって象られ、昏い海から浮かびあがってくる」と。
この文章から、最近の指導者の嘆きを解消できるのではと思いました。
お互いの認識が一致してはじめて指示した仕事が正確にでき、
それによる喜びを感じさせられます。そのためには、話し合いを重ねることです。
話し合いを重ねることは時間を要しますが、長い目で見ると仕事が正確にでき、
やる意欲をもってもらえれば、時間あたりの生産性は高まります。
時間をかけて向き合ってみませんか。 (白石)
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