「組織を変え、人を変える」意識改革運動(5)
〜アステラス製薬の企業風土改革(上)〜
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┃\/┃ ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛ 第128号
2012/12/01
http://www.koyousystem.jp
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早いもので師走、何かと気ぜわしいこの頃となりました。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
雇用システム研究所メールマガジン第128号をお送りします。
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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥
◆ 「組織を変え、人を変える」意識改革運動(5)
〜アステラス製薬の企業風土改革(上)〜
■3日間泊まり込んで徹底的に議論
■自分たちが動かなければ何も変わらない
■危機感の共有化と攻めのリストラを断行
(以上執筆者 溝上 憲文)
■高年齢者雇用確保の運用指針を公表
■継続雇用者の賃金・人事処遇は……
(以上執筆者 日本労働ペンクラブ 津山 勝四郎)
■[編集後記] (編集長 白石 多賀子)
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◆「組織を変え、人を変える」意識改革運動(5)
アステラス製薬の企業風土改革(上)
ビジネス環境の変化により業績が低迷し、部門の統廃合など全社的な構造改革に着手する企業が少なくない。
その一つの手段として企業の持続的成長を目指し、合併に踏み切る企業もある。
たとえば製薬業界は、2000年以降、外資を巻き込んだ業界再編劇が相次いだ。
その中でも合併の成功例と見なされているのが山之内製薬と藤沢薬品の合併で
05年に誕生したアステラス製薬だ。
両社は合併前、また合併後も大胆な事業構造改革と会社の体質や社員の働き方の
変革を促す組織風土改革運動を続けてきた。その取り組みを2回に分けて紹介したい。
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■■■ 3日間泊まり込んで徹底的に議論 ■■■
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藤沢薬品は2002年に会社始まって以来の未曾有の経営改革に取り組んだ。
業績が悪かったわけではない。外資による日本企業の買収が相次ぎ、
資本力、開発力、人材力で勝る外資に対抗し、グローバル市場で勝ち抜くための
経営体質の強化がその目的だった。具体的にはコスト構造改革と社員の意識改革の
2つである。
人件費改革では、一つは生産部門の子会社化と人事・総務系の子会社設立による
社員の転籍。もう一つは早期退職募集だった。
1100人が子会社に転籍し、給与水準を競合会社の合わせることで削減。
加えて約500人の早期退職募集を行うという大改革だった。当然、従業員にも動揺が
走る。そこで従業員の気持ちを萎えさせず、奮い立たせるために取り組んだのが
意識改革である。
本来なら従業員全員と会って会社の将来について議論するべきなのだが、
それは不可能だ。
意識改革のターゲットに据えたのは課長クラスだった。
だが問題はどのようにして意識改革を行うかである。考え抜いた末に、
3日間の泊まり込みによる合宿ミーティングを企画した。
しかもあえて研修プログラムを用意せず、会社の価値を高め、勝ち上がっていくには、
一人ひとりがどういう行動をとるべきなのか、膝詰めで徹底的に議論しようという
ものであった。もちろん、ミーティングには経営の責任者である社長も毎回必ず
参加した。会社がどういう状況に置かれているのか、
目指すべき将来像について率直に説明した。
「議論のスタートは、会社が描く向かうべき将来について、
やるべきことが今は何もできていないのではないか。
一人ひとりが自立していないし、何もわかっていないと、否定するところから入ります。
当然、反発もあります。激しい議論のやりとりを一晩、二晩繰り返しました」
(同社人事担当者)
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■■■ 自分たちが動かなければ何も変わらない ■■■
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参加者の中には、すでに子会社に転籍することが決まっている課長もいた。
その一人が居並ぶ課長連中に対してこう反発するシーンもあった。
「君たちがのうのうと暮らすために、僕らは給料の今の7掛けで転籍しようとして
いるし、従業員の1割が早期退職を要請されている。それなのになんだよ、
あんたらは。営業がもっと薬を売っていたらこんなことにはならなかったんじゃな
いか、正直言って君らは甘いよ。これから部下に転籍しろと言わなければならないし、
転籍した会社もどうなるかわからない。
今、この場で、何年以内に会社をこうしますと決意を語ってくれよ」
胸にグサリと突き刺さる厳しい言葉に、場内に緊張が走り、
議論は真剣さを帯びてくる。
毎日、毎晩繰り返すことで各人のやるべき行動を見定め、決意を新たにする。
「3日目になると、自分たちが動かないと何も始まらない
という気持ちになってきました」(人事担当者)
何回かに分けた全課長のミーティングの結果は、職場に戻って課長の思いとともに
部下にもフィードバックされた。
一方、新設される子会社の社長候補の十数人についても半年間の
経営研修プログラムを実施した。トップリーダーとしての自覚を持ち、
変革の志を持ってリーダーシップを発揮してほしいという狙いがあった。
「全員に対して、あなたたちが社長になる会社は給料が7掛けで、
社員が転籍してきます。
今まで一緒につきあってきた人たちにそういう思いをさせるときに、
この人とだったら一緒にがんばりたいと思わせるには、あなたたち自身が
何をすべきかを考えてほしい。自分の立ち居振る舞いも大事であるが、転籍に納得し、
この会社でがんばろうという気にさせるには、あなたたち自身が経営理念や事業理念、
経営方針を含めた経営プランを作らなければどうしようもないのです、
と強いメッセージを発信しました」(人事担当者)
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■■■ 危機感の共有化と攻めのリストラを断行 ■■■
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プログラム最終日には、自分たちで考えた経営プランを会長、社長の前で宣言する
とともに、転籍する社員たちにも語ってもらう機会を設けた。
コスト構造改革と意識改革は同時並行で実施され、終了するまでに1年半を費やす
ことになった。早期退職募集は業績好調ということもあり、
割増金を含めて分厚いパッケージを作ったこともあり、無理をすることなく
人数も集まったという。新設子会社への転籍もとくに問題もなく、対象者全員の
合意を取り付け、期日までに転籍した。
うまくいった理由について人事担当者は
「同業他社が外資に飲み込まれる光景を見ていて、いつ自分の会社がそうなるかも
しれないという危機感を管理職の多くが持っていました。それから業績も悪くないので、
キャッシュがあるときにやるべきことはやっておかないといけないという前向きの
姿勢が従業員に理解されたこと」という。会社が疲弊した挙げ句の後ろ向きの
リストラではなく、攻めのリストラが奏効した。
ところが、全員が新たな気持ちで改革に取り組んでいた矢先の04年年2月、
再び社内に激震が走った。山之内製薬との合併合意が発表されたのである。
社員からは
「ここまでさせといて次は合併かよ、もうええかげんにせいや。
皆で涙を流してこれからがんばろうな、と言っていたのに、
なんで単独でやらせてくれないんだ」という怨嗟の声も上がった。 (続く)
(溝上 憲文)
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■■■ 高年齢者雇用確保の運用指針を公表 ■■■
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11月1日付に続き、今号でも来年4月1日から施行される
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」(以下、改正高齢法)
にふれる。
前号の2日後の11月2日に改正高齢法の実際の運用基準となる
「高年齢者等職業安定対策基本方針」と、
「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」が労働政策審議会で了承された。
重複するが、改正高齢法は概略5項目から構成されており、
(1)継続雇用制度の対象となる高年齢者につき、事業主が労使協定により定める基準
により限定できる仕組みを廃止し、定年後の雇用の希望者全員が
継続雇用制度の対象とする、
(2)対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業にまで拡大する仕組みとする、
(3)雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する、
(4)成立にあたっての衆議院修正により、事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の
実施及び運用に関する指針の根拠を設ける、
(5)経過措置として厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の人を対象に、
現行の基準を引き続き利用できる12年間の猶予期間を設ける、
の5項目が骨格となっている。
11月2日の労働政策審議会で了承された「基本方針」は対象期間として
平成25年度から平成29年度までの5年間とし、高年齢者の雇用・就業の状況や関連する
雇用制度の動向に照らし、平成32年までの目標として
60〜64歳までの就業率を63%、65〜69歳の就業率を40%とすることを目標に掲げている。
また、改正高齢法に盛り込まれた勧告に従わない企業名の公表では、ハローワークでの
求人の不受理、紹介留保、助成金の不支給などの措置を講ずることが新規に盛り込まれた。
ここまでは基本方針で、事業主や労働者にとって実際の運用指針となる細則(通達)
も労働政策審議会に提出され、了承された。
指針の主な内容は、継続雇用制度については、希望者全員を対象とし、グループ企業
で雇用を確保する場合は、事業主同士の承認が必要であり、契約の締結が必要であること、
現行の就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものは除く)で、
心身の故障のため業務に堪えられないと認められることと、勤務状況が著しく不良で
引き続き従業員としての職責を果たし得ないことに該当する場合には継続雇用しない
ことができる。
もっとも、この2項目は高年齢者でなくとも全労働者に該当することになるが、
問題は、心身の故障と職責を果たしえないことの因果関係が労使の判断が異なってくる
ことが予測され、指針では就業規則に定める解雇事由又は退職事由と同一の事由を、
継続しないことができる事由として別に就業規則に定めることができるとしている。
同様に継続雇用の実施のための同一事由の労使協定を締結することもできる。
つまり、継続雇用制度を前提とした新しい就業規則と労使協定を創設することは
可能だが、現行よりも後向きなもの、客観的な合理性のないもの、
社会通念上相当でないもの、改正高齢法の趣旨からも関連労働法制からも
妥当でないことになる。
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■■■ 継続雇用者の賃金・人事処遇は…… ■■■
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そこで問題となるのが基準によって継続雇用となった高年齢者の賃金・人事処遇である。
基準では留意点として7項目の留意事項をあげている。以下、列記する。
(1)年齢的要素を重視する賃金・人事処遇制度から、能力・職務などの要素を重視
する制度に見直すが、該当労働者の雇用と生活に配慮して計画的かつ段階的に行う。
(2)賃金についても同様の配慮をする。
(3)短時間勤務や隔日勤務などの制度を導入する。
(4)契約期間を定める場合は、65歳前に契約期間が終了とする場合には、
65歳までは契約更新ができる旨を周知し、むやみに短い契約期間としない。
(5)能力評価の仕組みの整備と、高年齢者の意欲・能力に応じた適正な配置と処遇を実現する。
(6)勤務形態や退職時期の選択については、個々の高年齢者の意欲・能力に応じた
多様な選択が可能となる制度の整備を行う。
(7)継続雇用の希望者が少ない場合には、労働者のニーズを分析した上で制度の
見直しを検討する。
労働政策審議会では、労働側委員から、改正高齢法の内容周知について、
「周知というのは、法律的にはどうなるのか」という指摘があり、厚生労働省から
「やり方は任意で、必ず就業規則で周知するものではない」との回答があり、
高年齢者が希望しているにもかかわらず解雇される場合では、雇用保険上の対応や、
ハローワークにおける高年齢者総合相談窓口の開設による職業生活の再設計への
支援や就労援助などの施策を展開していくとの説明もあった。
また、経営側委員からは、前記(1)から(6)までは努力義務となっているのに、
(7)だけ努力義務の文言はないのは何故か、との質問があった。
つまり、これ以上経営側の負担を重くするのは避けて欲しいとの意見である。
高齢法の見直しだけではなく、該当労働者の賃金・人事処遇制度の見直しでよいのでは、
との基本的な疑問が提示された。
今回の改正は、当面は来年4月からの年金支給開始年齢の引上げに対応したもので、
今後の課題として、高年齢者の雇用制度そのものが確立していない中小企業、
特に増加する非正規高年齢労働者への法的整備など、
現行の障害者雇用促進法に類似する方向が求められていく。
(津山 勝四郎)
編┃集┃後┃記┃
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今年も残すところ1ヵ月となり師走です。
今年は、皆様にとりましてどのような一年でしたか。
円高等の影響でパナソニック、ソニー等の電気産業が打撃を受け、
特にシャープの衰退にはショックが大きかったです。
ただ、ただ、日本経済に明るい兆しを望むばかりです。
日本マンパワーが50代社員に『定年』について調査したところ、
○定年後も働きたいと考えている人は 57.3%
○定年後の将来の見通しが明るい社員は 15.9%
この調査の数値をみて、定年後も働かないと収入の空白期間が発生する世代にとって
は、明るい未来がもてないのですね。
来春4月から、60歳に達する人は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢
が段階的に引き上げられ、それに伴い高年齢者雇用安定法の改正で、
継続雇用制度の対象者を限定する基準設定が廃止されます。
一所懸命働いて税金・社会保険料を納付しているにもかかわらず、
年金受給が先延ばしになり定年後の生活が不安です。
一所懸命に働いた人が報われる社会になれば将来に夢をもてるのかもしれません。
ノロウイルスと風邪の流行に十分注意して暮れまで頑張りましょう。
(白石)
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