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人事部で意見が割れる「朝方勤務」の功罪

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┏━━┓    
┃\/┃    ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛                           第160号
                              2015/08/01

           http://www.koyousystem.jp
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梅雨も明け、いよいよ本格的な夏の到来です。
皆様いかがお過ごしでしょうか。

雇用システム研究所メールマガジン第160号をお送りします。

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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥

◆人事部で意見が割れる「朝方勤務」の功罪
   〜会社と社員にどんな影響を与えるのか〜

■リーガルリスク軽減と総実労働時間の減少に貢献
■営業職は無理、子育て世帯の朝の負担が増大
■歯止めがないと長時間労働を助長。働き方の見直しが必要
(以上執筆者 溝上 憲文)


■過労死防止に向けた職場環境づくりに本格着手
(以上執筆者 日本労働ペンクラブ 津山 勝四郎)

■[編集後記] (編集長 白石 多賀子)

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◆人事部で意見が割れる「朝方勤務」の功罪
   〜会社と社員にどんな影響を与えるのか〜

 早朝出勤の奨励や始業時間を早めて早期退勤を促す「朝方勤務」を導入する企
業が徐々に増えている。
国家公務員の始業時間を早めた「ゆう活」も7月から始まっている。

 朝方勤務はワーク・ライフ・バランスの観点から推奨されている。会社にとっ
ては長時間労働の防止や時間外勤務手当の削減につながり、社員にとっても早く
帰ることで私生活や家族との時間を享受できるメリットがあるとされている。


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■■■ リーガルリスク軽減と総実労働時間の減少に貢献 ■■■
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 朝方勤務の先駆けとなった伊藤忠商事はその成功事例とされている。
伊藤忠の仕組みは20時〜22時の残業を原則禁止、22時以降の残業を禁止。
始業時間の9時前の5時〜8時の時間外割増率を50%、
8時〜9時を25%にするというものだ。

 周知のように時間外労働の割増賃金は所定労働時間(勤務時間)を超えた場合
に1時間につき25%以上の割増賃金、22時から翌日の5時までの深夜労働はさら
に25%以上の割増賃金の支払い義務がある(25+25=50%)。
また、管理職も深夜労働に関しては割増賃金の支払い義務がある。
伊藤忠の場合は5時〜8時の時間外割増率を深夜労働と同じ通常の25%の倍の50%
というインセンティブをつけて朝方勤務を奨励している点が大きな特徴だ。

 実際に効果も出ている。

導入前の20時以降の退館者は約30%だったが、正式導入後に約7%に減少し、22
時以降はほぼゼロという(同社HP)。

 だが、実際の導入については、人事関係者の間では賛否が分かれる。
食品業の人事部長は伊藤忠の成功を踏まえて朝方勤務を導入すべきだと言う。

「じつはこれまでは朝早く来ても時間外手当を申告する人が少なかった。
労働基準監督署の監督官も企業に立ち入り調査したときに、必ず労働時間と残業
代の支払い状況をチェックしているが、朝早く出勤していても残業代を支払って
いる会社はほとんどないと言っている。
会社の担当者に聞いても、朝早く出勤するのは業務命令ではなく、本人の自由意
志なので申告してこないと言っているそうだ。
つまり、サービス残業になっているとすれば、始業時間を1時間早めて、
朝の残業代もきちんとつけるようにすればリーガルリスクも軽減されるメリット
もある」

 たとえば9時始業の会社であれば、8時始業にすることで8時に出社していた
社員の違法サービス残業状態を解消できることにもなる。

 さらに「終業時間も4時30分にすれば、それ以降は時間外手当がつくようにな
る。残業する社員もいるだろうし、当初は時間外勤務手当は増えるだろうが、伊
藤忠のように早期退勤を促せば、19時ぐらいには帰るようになるだろう。結果的
に時間外手当も減少し、社員の総実労働時間も減少することにつながる」
(人事部長)とメリットを強調する。


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■■■ 営業職は無理、子育て世帯の朝の負担が増大 ■■■
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 だが、導入は難しいと指摘する人事関係者も少なくない。中堅消費財メーカー
は社長の意向を踏まえて始業時刻を1時間早め、終業時間を4時30分とする提案
をしたが、営業部から猛反発を受けたという。

同社の人事部長は「管理職から量販店や卸問屋に営業に出向いているときに、取
引先にうちは終業時間が4時半なので、これで失礼します、と言えるわけがない
と大反対を受けた。結局、始業時間を1時間ではなく、30分早めることで朝方勤
務を始めることで合意した」と言う。

 最初から導入は無理と語るのは外資系製薬業の人事課長だ。大半を占める営業
職はドクターが相手であり、自分の都合で仕事を終わらせることができないと語る。

「仮に会社の終業時間を5時30分にするにしても、5時30分に仕事が終わるドク
ターは一人もいない。営業担当者が『会社としてワーク・ライフ・バランスを推
進しているので、私はこれから家に帰って家族と食事をします』と言おうものな
ら『ふざけるな』と怒られるのは間違いない。
といって本社部門だけ朝方勤務をやり、終業時刻を早めても、営業現場で問題が
発生し、本部に電話が入っても誰も残っていなければ、今度は現場から『ふざけ
るな』と怒られる。
うちのような業態では実施するのはほとんど不可能だ」

 仮に営業部門も含めて実施することになれば、取引先の納得と合意を取り付け
ておくことが必要になる。すべての会社が実施するのは難しいかもしれない。

 朝方勤務の不都合を被るのは営業だけではない。ネット広告業の人事部長はこ
う語る。

「部門では朝8時のミーティングを設定しているところも多い。
子育て中の女性社員の中には出席するためにわざわざベビーシッターに頼んで保
育園の開く時間に連れて行ってもらっている人も結構いる。
オフィシャルな会議であればベビーシッター代を会社が支払っていますが、遠距
離の人は家族と朝食もとれなくなる。週に1日ぐらいならまだよいが、毎朝8時
出社となれば、社員にかなりの負担を強いることになる」


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■■■ 歯止めがないと長時間労働を助長。働き方の見直しが必要 ■■■
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 確かに通勤時間が1時間を超える子育て世代にとっては家族だんらんどころ
か、朝の負担も増えることになりかねない。

それでも、定時に帰れるようになればよいが、その保証はない。朝方勤務が逆に
長時間労働につながりかねない。ネット広告業の人事部長は
「朝早く出勤しても夜遅くまで仕事をしないように担保しないと危険です。
とくに外回りの営業社員は放っておくと、終電まで働いてしまう可能性もある。
そうなるのが一番怖い」と指摘する。

 社内で働く社員ならば、消灯して強制的に追い出すことも可能だが、外回りの
営業には早く帰れといっても通じない。
すでに始業時刻を30分前倒ししたサマータイムを実施している電器機器メーカー
の人事担当役員は「いくら出勤時間を早くしても、部署によっては終電近くまで
働いているところもあるようだ。朝方勤務は労働時間削減の根本的な解決にはつ
ながらない。

解決するには定時に終われるように仕事のやり方を変えることだ」と指摘する。

 残業代目当ての「残業ドロボー」社員は別にして、仕事を早く終わらせて早く
帰りたいと思っている社員は多いだろう。
朝方勤務の導入に際して従来の業務の範囲や仕事の与え方など働き方を見直す契
機にしてはどうか。                    (溝上 憲文)

                            
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■■■ 過労死防止に向けた職場環境づくりに本格着手 ■■■
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旧聞に属するが、厚生労働省が6月25日に公表した平成26年度における
「過労死等の労災補償状況」によると、
過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で
発病した精神障害に労災補償は、脳・心臓疾患では、請求件数763件、
支給決定件数は277件(うち死亡121件)で、いずれも前年度より減少している一
方で、精神障害では請求件数1456件、
支給決定件数は497件(うち未遂を含む自殺99件)とそれぞれ過去最高の件数と
なっている。

 職種別にみると、脳・心臓疾患の請求件数では、「輸送・機械運転従事者」
149件、「サービス職業従事者」125件、「専門的・技術職業従事者」102件の順
で多く、支給決定件数では、「輸送・機械運転従事者」88件、「専門的・技術的
職業従事者」44件、「管理的職業従事者」37件の順となっている。

精神障害では請求件数、支給決定件数ともに「専門的・技術的職業従事者」
347件、110件、「事務従事者」336件、99件、「サービス職業従事者」193件、
63件の順に多い。

精神障害の出来事別の支給決定件数では、
「悲惨な事故や災害の体験、目撃」、
「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の順で多く、
40代、30代のいわゆるホワイトカラー集団に件数が多いことも注目される。

 政府は昨年6月に成立し、11月から施行されている「過労死防止対策推進法」
に基づき、7月24日には「過労死等の防止のための対策に関する大綱」を閣議決
定し、調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の活動に対する支援の4対策
を効果的に推進するため、今後おおむね3年間での取組み内容を具体的に策定した。
当面は、将来的に過労死等をゼロにすることを目指し、平成32年までに
「週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」、
「年次有給休暇取得率を70%以上」、
平成29年までに「メンタルヘルス対策に取組んでいる事業場の割合を80%以上」
とする数値目標を達成することを労働行政上の重点施策としている。

 調査研究は医学や労働、社会分野のみならず、経済学等の関連分野を含め、特
に医学分野では過労死等の危険因子と疾患との関連の解明、労働・社会分野では
過労死等が多く発生している職種・業種や、若年者をはじめとする特定の年齢層
の労働者について、より掘り下げた調査研究を行い、啓発活動としては国民一人
ひとり、学校教育、職場の関係者などに過労死等の防止の重要性、労働関係法
令、特に労働基準や労働安全衛生に関する法令等の内容や趣旨の理解促進のため
の指導を行っていく。

 相談体制の整備では、多様な相談窓口の整備のための民間団体との連携、産業
医をはじめとする産業保健スタッフの充実・強化、職場においては労働者自らが
身体面、精神面の不調に気づくために、上司、同僚との共通理解の形成、などを
基本的考え方として、民間団体の活動とも連携していく。

 大綱は国以外の主体が取組む重点対策も明記し、地方公共団体に対しては、地
域の産業特性の実情に応じた取組みを国と連携して進めること、事業場に対して
は、経営幹部の取組みとして、働き盛りの年齢層と若い年齢層に注視して過労死
等が発生した場合の原因究明、再発防止対策の徹底、常駐するスタッフが適切な
役割を果たすよう環境整備を図るとともに、産業医がいない小・零細規模の事業
場における産業保健総合支援センターの活用を図り、労働組合に対しても労使が
協力した取組みを行うよう努めるほか、組合員に対する周知・啓発や、大綱の趣
旨を踏まえた協定又は決議を行うよう要請している。

 大綱が画餅にならないよう、推進上の留意事項として、関係行政機関には毎年
の対策の推進状況の報告を義務づけるとともに、過労死等防止対策推進協議会で
は報告された内容の点検を踏まえた上で、おおむね3年を目途に必要があると認
めた時に大綱の見直しを行うことになる。

 大綱の閣議決定がなされた同日、連合は神津事務局長名で談話を公表し、「対
策は既存の政策を中心とした内容にとどまり、実効性に欠け全く不十分で、労働
者側の意見が盛り込まれておらず、事業主が取組むべき内容が抽象的で努力目標
でしかない」
と糾弾した上で、
「今国会に提出している改正労働基準法案は実効ある長時間労働抑止策が盛り込
まれておらず、過重労働に歯止めがかからない内容で、過労死等防止対策推進法
及び大綱に矛盾した法案である」として、強く反論している。

確かに、「平成32年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」との
具体的目標を盛り込む一方で、改正労働基準法案では、裁量労働制の対象業務拡
大や高度プロフェッショナル制度の創設など、長時間労働に拍車をかけることに
なりかねない改正内容となっており、連合の反論も理解できる。

 長時間労働と事業場内でのいじめ・嫌がらせ。企業によっては社内に相談室を
設けたり、労働組合と連携して社員からの相談に対応していたり、産業医に委託
したりしている一方で、そこで相談した内容が企業側に漏れてしまうという事例
が多いという話も聞く。
12月から施行されるストレスチェック制度でも労働者の個人情報漏洩を厳しく禁
止しているが、果たして実態はどうなるか。

 現行の労働基準法第36条では、1年に6ヵ月以内としながらも、特別条項を労働
基準監督署に届け出れば、事実上は青天井で時間外労働を設定することができ
る。長時間労働の上に割増賃金も法定通りに支給されないとなると、精神的に脆
弱になったと指摘される現代の若者でなくとも精神障害に結びついていくだろ
う。大綱もいいが、何か先にやるべき事がありそうな気がする。

 平成28年予算概算要求に当たっての基本方針も7月24日に閣議決定された。厚
生労働省関係では高齢化等に伴う自然増加額が6700億円に押さえられ、裁量的経
費、業務的経費も前年度予算額の一割減の範囲内で要求となっている。
一方で景気回復による労働・社会保険料の増収により、特別会計による施策拡充
が期待され、特に労働行政の展開は雇用・労災特別会計による予算充当が施策を
大きく左右するだけに、今回大綱に盛り込まれた具体的目標に、初年度分として
どれだけの予算が計上されるのかに注目したい。
                           (津山 勝四郎)


編┃集┃後┃記┃
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 暑中お見舞い申し上げます。
 
 猛暑の日々、睡眠や食欲面で夏バテはしていませんか。
先週末、同級会に出席するため信州に帰省しました。
浅間山の山並みと山麓の緑の濃淡が美しく夏空に映えていましたが、涼しい高原
の風は期待できず東京と変わらない35度近い気温でした。
 
 厚生労働省は、今年4月1日から東京労働局及び大阪労働局に「過重労働撲滅
特別対策班(通称「かとく」)」を立ち上げました。

「かとく」は、過重労働等の撲滅に向け著しい過重労働による労働基準法違反が
認められる等の重大・悪質な事案に対して司法処分を含め厳正に対応しています。
「かとく」が捜査していた株式会社エービーシー・マートを7月2日に長時間労
働による労働基準法違反の容疑で、東京地方検察庁に書類送検しました。

 5月に居酒屋「庄や」をチェーン展開する「大庄」が93時間に及ぶ時間外労働
をさせたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検されています。
社会的に影響力の大きい企業が書類送検・企業名公表されることにより、
「ブラック企業」の撲滅を狙っています。

今や、人手不足で有能な人材確保も難しい状況です。
やっと採用しても先輩から「この会社はブラック企業」と聞くとすぐ退職
します。
有能な人材育成・定着のために労働環境を見直し、また労働者とのコミュニケー
ションがとれる風土を作ることが重要です。

企業風土がよくなると、そこで働く労働者の姿勢・意欲が高まり、
消費者等から信頼が得られ、企業繁栄と繋がります。

熱中症等には、呉々もお気をつけください。         (白石)



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発行者 雇用システム研究所
代表 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp

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お楽しみいただければ幸いです。
今後もさらに内容充実していきたいと思います。
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