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東芝事件の教訓〜不正会計の温床になった人事管理の問題点〜

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┃\/┃    ★雇用システム研究所メールマガジン★
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                              2015/09/01

           http://www.koyousystem.jp
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残暑の中にも、ほのかな秋の気配を感じる頃となりました。
皆様いかがお過ごしでしょうか。

雇用システム研究所メールマガジン第161号をお送りします。

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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥

◆東芝事件の教訓
   〜不正会計の温床になった人事管理の問題点〜

■「機能別組織」によるセクショナリズムの弊害
■経営幹部候補の養成部署だった「経営監査部」
■“チャレンジ”と一体的な「業績評価制度」の存在
(以上執筆者 溝上 憲文)


■仕事と家庭の両立支援を再構築
■予算措置として145億円計上
(以上執筆者 日本労働ペンクラブ 津山 勝四郎)

■[編集後記] (編集長 白石 多賀子)

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◆東芝事件の教訓
   〜不正会計の温床になった人事管理の問題点〜

 日本企業のコーポレート・ガバナンスのあり方に大きな衝撃を与えた東芝の巨
額不正経理事件。2014年までの7年間に1562億円の利益を水増ししていたとする
東芝の第三者委員会の調査報告書(7月21日公表)には、辞任した田中久夫社
長、佐々木則夫副会長、西田厚聰相談役の歴代3トップ主導による利益のかさ上
げ、前倒し計上、負債記録の先送りなどの組織的な会計操作の実態が生々しく描
かれている。

 不正経理を主導したトップの責任は重いが、経営トップの暴走を経営幹部など
他の社員は誰も止められなかったのか。それどころか多くの社員が荷担していた
状況が調査報告書に記されている。同社の人事管理はどうなっていたのか。


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■■■ 「機能別組織」によるセクショナリズムの弊害 ■■■
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 調査報告書では「東芝においては、上司の意向に逆らうことができないという
企業風土が存在していた」と指摘している。
企業風土の中身にまで具体的に言及していないが、報告書を読むと人事管理上の
問題点も浮き上がってくる。

 その一つが「人事ローテーション」だ。東芝では財務・経理部門に配属される
と、定年まで同じ部署で過ごし、他の部署に異動することがなかった。人事用語
で「機能別組織」と呼ばれるものだが、その道一筋の専門家、プロフェッショナ
ルを養成する効果がある。

 この仕組み自体は悪い仕組みではないが、報告書では
「このような人事ローテーションの結果、過去に他の財務・経理部門の従業員の
関与により不適切な会計処理が行われたことに気づいても、仲間意識により実際
にこれを是正することは困難な状況にあったものと推測される」と述べている。

 今回の不正事件には財務・経理部が深く関与していたこと、財務部長がCFO
に昇進し、その後、取締役会の監査委員になる慣例があり、その結果、不正を隠
蔽していた事実が指摘されている。つまり、専門家を養成する機能別組織が自部
門の利益のみを守ろうとするセクショナリズムに陥り、倫理観が強く求められる
経理・財務部門がその使命感を失っていたというものだ。

 これは財務・経理部門に限らず他の部門間の情報を遮断する“縦割り行政”に
なっていた可能性がある。その情報を一部の経営陣だけが把握し、社外取締役を
含む他の経営陣には知られない構図になっていたのではないか。


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■■■ 経営幹部候補の養成部署だった「経営監査部」 ■■■
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 2番目は組織の役割・職務が機能停止状態に置かれていたことだ。東芝には不
正を監視するいくつかの機能があるが「経営監査部」もその一つだ。ところが東
芝の経営監査部は、各カンパニー会計監査業務をほとんど行っておらず、経営コ
ンサル業務しかやっていなかった。

 しかも報告書では「監査対象としたいくつかの案件について、不適切な会計処
理が行われている可能性があることや、少なくとも一定の会計処理をとるべき必
要性を裏付ける事実を認識していたにもかかわらず、経営監査部がその会計処理
について何らかの指摘等を行った形跡も見られなかった」と指摘している。

 なぜ不正に気づいても見逃していたのだろうか。報告書には興味深いこんな一
文がある。

「P(経営トップ)の中には、経営監査部に一般的な意味における『監査』の役
割を期待していなかった者もいた。(中略)また、人員配置においても、各カン
パニーから将来事業部長になるためのキャリアパス的な位置づけで経営監査部に
人を配置するというローテーションが組まれていた。そのため、経理や各カンパ
ニーの業務に精通したベテラン等の人員が多く配置されることはなく、適切な監
査を期待できる状況でもなかった」

 つまり、経営監査部とは名ばかりで、実際は将来の経営幹部候補を配置し、事
業全般について勉強し、時には事業の提案もするコンサル部署にすぎなかったの
だ。当然、監査については素人である。たとえ何らかの不正に気づいたとして
も、それを正そうとすれば出世の道が絶たれることになる。そんな危ない橋を渡
ろうとする者はいないだろう。

 じつは経営監査部は他社にも存在する。大手企業の社外取締役として監査を経
験した人によれば、経営監査部は社外取締役の補佐的役割を果たしているのだと
いう。経営監査部が機能しない東芝では社外取締役が何人いても不正に気づくこ
とは無理だったのかもしれない。

 また、本来の経営幹部の養成は部門間をまたがる人事異動によって別の部門の
経営職に抜擢し、経験を重ねることで経営者としての知識と経験を修得していく
ものだ。そうした配置ができずに経営監査部に置いていたとすれば、縦割り組織
の弊害がここにも現れている。



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■■■ “チャレンジ”と一体的な「業績評価制度」の存在 ■■■
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 報告書では不正を許容する原因の一つとして役職員に導入している「業績評価
制度」についてこう述べている。

「例えば、執行役に対する報酬は、役位に応じた基本報酬と職務内容に応じた職
務報酬から構成されている。このうち職務報酬の40%から50%は、全社又は担当
部門の期末業績に応じて0倍(不支給)から2倍で評価されることとなってお
り、このような業績評価部分の割合の高い業績評価制度の存在が、各カンパニー
における『当期利益至上主義』に基づく予算又は『チャレンジ』達成の動機付け
ないしはプレッシャーにつながった可能性が高い」

たとえばパソコン部門の利益嵩上げでは、経営トップが担当幹部に「いくら為替
が悪いと言っても話にならない。とにかく半導体が悪いのだから、予算を達成し
てほしい」「こんな数字ははずかしくて(1月に)公表できない」(報告書)な
どと、過大な目標を設定する「チャレンジ」を要請していた。

業績評価制度自体は悪くないと思っている。問題なのは業績評価主義ではなく、
それを逆手にとって不正な会計処理を要求していた経営トップだ。
無理難題な目標を設定し、達成できなければ、あなたや部下の給与も大幅に下が
るぞ、という形で制度を悪用していた点にある。

 今回の事件は不正会計問題がクローズアップされているが、その温床となった
人事管理の問題も見逃すことはできない。どんなにすばらしい人事制度であって
も、使い方を間違えれば、社員の倫理観を麻痺させ、組織を崩壊に導くリスクも
併せ持っている。組織・人事制度の適正な運用がいかに大事であるかを改めて教
えてくれる。                       (溝上 憲文)

                            
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■■■ 仕事と家庭の両立支援を再構築 ■■■
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 昨年11月に立ちあげられた「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」
(厚生労働省雇用均等・児童家庭局長の私的研究会、座長・佐藤博樹中央大学大
学院戦略経営研究科教授)の報告書が、平成28年度厚生労働省予算概算要求を前
に取りまとめられた。

報告書は既に突入している「超高齢社会」(平成47年には33.4%、平成72年には
39.9%の人が65歳以上の高齢者になることが見込まれている)における仕事と介
護の両立と、仕事と育児の両立に係る現状を分析した上で、今後の両立支援の基
本的な考え方と具体策を提言しており、いわゆる政府が設定した各種研究会の形
式的な報告と異なり、現場の課題解消にまで踏み込んだ出色の内容となっている。

 今回の報告書内容もそうだが、厚労省の雇用均等部門は、自前財源の充当がな
いなかでのここ何年かの健闘は、一方で過去の失態回復に追われている部局が同
じ省内にあるだけに、評価できる。女性登用の政策結果が顕著に現れた結果とは
いえ、公務員版ポジティブアクションである。

 報告書はまず、仕事と介護の両立における現状を、家族を介護する労働者の現
状に対応できていないとして、仕事と介護の両立支援制度の位置づけを、介護の
体制を構築するために一定期間休業する(介護休業)場合と、介護の体制を構築
した後の期間に定期的又はスポット的に対応する(介護休暇)場合に再整理し、
そのために現行の介護のための勤務時間や勤務時間帯の調整が必要だと強調して
いる。

 具体的には、
【1】介護休業(一人の要介護状態ごとに通算して93日)の分割取得を認め、分
割回数は介護の始期・終期・その間の時期にそれぞれ1回程度、休業できるよう
にする、
【2】介護休暇(要介護者一人につき年5日、二人以上の場合は年10日)の取得単
位を見直し、日数の延長や取得単位そのものの見直しや、時間単位や半日単位で
の取得を導入すること、
【3】選択的措置義務(短時間勤務制度等のうち、いずれかを事業主が選択して
措置する義務)と所定外労働の免除について、選択的措置義務を介護休業と通算
して93日間から切り出した上で期間の長さを検討するとともに、措置内容を従来
の選択的措置義務の内容のまま、所定外労働の制限を追加する等の内容の変更
と、短時間勤務制度等を単独の措置義務とすることを含め、所定外労働の免除制
度を事業主への義務化、選択的措置義務への追加、などによる制度改革を提言し
ている。

 報告書は次に仕事と育児の両立における現状分析として、女性労働者の多様な
状況に対応できていないことと、男性の育児休業取得(特に妻が専業主婦の場
合)が進んでいないことを指摘し、有期契約労働者が、妊娠・出産・育児期に育
児休業を含めた柔軟な働き方ができることや、男女とも希望する者が育児休業を
取得できるようにする体制整備として、男性の多様な状況に応じた施策、例えば
出産後8週間以内など(労働基準法上の義務)の期間を定めた育児休業の取得な
どが必要としている。

 具体的には、
【1】育児休業の対象となる子の範囲(法律上の親子関係)を見直し、育児休業
が形成権であること、全ての事業所に適用される最低基準であることを踏まえ、
子の養育実態だけで判断するのでなく、少なくとも法律上の親子関係に準ずる関
係と言えるか否かという観点から検討する、
【2】有期契約労働者に係る育児休業の取得要件を、「子が1歳以降の雇用継続見
込み」の要件は労働者が判断することは難しい場合もあることから、雇用の継続
を前提とした上で、適用範囲が明確になるよう見直す、
【3】派遣労働者の育児休業取得後の継続雇用機会の確保を派遣元の努力義務と
することの検討、
【4】子の看護休暇を時間単位や半日単位での取得可能とすること、
【5】現行で子が3歳までを対象とする所定労働時間の短縮措置において、対象年
齢を引き上げを検討するが、その場合も結果的に女性の制度利用に偏り、活躍を
阻害することにならないような制度設計、などの両立支援策を提言している。

 報告書はその他に、テレワークの活用、経済的支援(休業取得中の経済的負担
軽減)、転勤配慮、介護保険サービスの充実、保育サービスの充実、なども今後
の政策課題として掲げている。


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■■■ 予算措置として145億円計上 ■■■
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 厚生労働省は8月26日、平成28年度予算概算要求を自民党厚生労働部会に提出
し、了承された。一般会計30兆6675億円、労働保険特別会計3兆6536億円、年金
特別会計63兆5498億円の政府全体の一般歳出をはるかに上回る巨大予算を要求し
ている。子ども・子育て支援新制度は、消費税を財源とするため、内閣府で要求
されている。

 このうち、仕事と家庭の両立支援策の推進に前年度予算を31億円上回る94億円
を計上しているが、施策内容は中小企業における労働者の育児・介護休業の取得
及び職場復帰などを図るための育休復帰支援プランの策定支援に加えて、対象を
介護休業にも拡大して介護支援プランとするとともに、育児休業中の代替要員の
確保や介護離職防止等の取組みを行う中小企業事業主に対する助成金も拡充す
る。また、男性の育児休業の取得促進のため、職場環境整備の取組みを行う事業
主に対する助成金を新設(研究会報告に盛り込まれている)し、いわゆるイクメ
ン事業を拡充する。同時に女性の活躍推進やひとり親に対する就業対策の強化と
して、育児等で離職した女性の再就職が円滑に進むよう、求職者支援制度におけ
る育児等と両立しやすい短時間訓練コースや訓練受講の際の託児サービスの新設
を盛り込んでいる。女性の活躍推進とひとり親家庭の自立支援では、相談窓口の
ワンストップの推進、ひとり親支援専門の就職支援ナビゲータ等の配置や、母子
家庭の母等について、試行雇用から長期雇用につなげる道を広げるため、トライ
アル雇用奨励金と特定就職困難者雇用開発助成金の併給を可能とする。
前出の94億円とあわせ、総額145億円を要求している。

 過去にもこのメルマガでふれているが、超高齢化社会の予想以上の早い到来に
より(旧厚生省人口問題研究所の楽観的人口推計は国全体の施策方向を狂わし
た)、社会保障予算は厚生労働省だけの自助努力だけでは無理で、全省庁(例え
ば子供数に関係なく教師の増員を要求している文部科学省、国家防衛を金科玉条
として増額を要求する防衛省、その他には国土交通省など)が自省の予算編成を
見直す時期に来ている。言い古されているが、国家財政はすでに破綻しており、
つけを先送りしているだけである。国民に国債購入の力がなくなったら国家予算
そのものが編成できなくなる。日本が第2のギリシャにはならないという考え
は、まもなく妄想となる。              (津山 勝四郎)



編┃集┃後┃記┃
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電通総研は、8月13日に「若者×働く」調査結果を発表しました。
調査は、今年3月に全国の「週3日以上勤務の就労者18〜29歳の3,000名、
30〜49歳の2,400名の男女(学生除く)」を対象に実施し、次のとおりの調査
結果が報告されています。

1. 若者の約3割が非正規雇用。女性では約4割。
2. 働く上での不満は、給料などの待遇面、有給休暇の取りづらさ、
仕事の内容など。
3. 働く目的はまず先に生活の安定。働くのなら「生きがい」も得たい。
4. 現在の働き方は堅実に、理想は柔軟な働き方をしてみたい。
5. 約4割が働くのは当たり前だと思っているが、約3割はできれば働きたくない
と思っている。安定した会社で働きたいが、1つの会社でずっと働いていたいと
いう意識は低い。
6.「社会のために働く」と聞いてイメージする「社会」は「日本」と「身近なコ
ミュニティー」。
7. 若者は「企業戦士」「モーレツ社員」という言葉を知らない。

調査結果で「働きたくない」若者が約3割いることに驚きました。
また、「企業戦士」「モーレツ社員」は1970年代の日本の高度経済成長期の言葉
で、認識率は、

○「企業戦士」は、40〜49歳が53.6%、18〜29歳は31.2%。
○「モーレツ社員」は、40〜49歳が54.4%、18〜29歳は21.7%。
と、世代ギャップがみられます。

世代ギャップを感じても、若者達の「働く」ことへの意識を理解して活用しなけ
ればなりません。
常に柔軟性を持って若者達に接することが大切のようです。    (白石)



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発行者 雇用システム研究所
代表 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp

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お楽しみいただければ幸いです。
今後もさらに内容充実していきたいと思います。
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次回の配信は10月初旬頃情報を送らせて頂きます。

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