本文へスキップ

人事・労務に関する御相談は東京都新宿区 社会保険労務士法人 雇用システム研究所まで

電話での相談・お問い合わせはTEL.03-5206-5991

〒162-0825 東京都新宿区神楽坂2-13 末よしビル4階

発刊済みメールマガジンMail Magazine

長時間労働をいかに抑制するか〜伊藤忠商事の朝型勤務の効果〜

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏━━┓    
┃\/┃    ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛                           第175号
                              2016/11/01

           http://www.koyousystem.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

鮮やかな紅葉の季節となりました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。

雇用システム研究所メールマガジン第175号をお送りします。

=============================================

□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥

◆長時間労働をいかに抑制するか〜伊藤忠商事の朝型勤務の効果〜

■「多残業体質」抜本的改革を断行
■実施前に社員説明会、業務効率キャンペーンを展開
■22時以降勤務者ゼロ、残業手当7%の減少
(以上執筆者 溝上 憲文)


◆高まる外国人労働力への関心

■外国人労働力への期待
■技能実習制度の現状と見直し
■介護人材の受け入れの議論
(以上執筆者 北浦 正行)

■[編集後記] (編集長 白石 多賀子)

=============================================

◆長時間労働をいかに抑制するか〜伊藤忠商事の朝型勤務の効果〜

 官民を挙げた「働き方改革」が始まっている。

政府は「働き方改革担当大臣」を設置し、安倍首相を議長とする
「働き方改革実現本部」も動き出した。その中の目玉の一つが長時間労働の規制
であり、労働基準法の改正を含めた企業の残業対策を後押ししていこうとするも
のだ。

 だが、残業を減らすといっても簡単ではない。組織のあり方や上司の仕事の与
え方など職場の業務効率の改善だけではなく、経営トップが積極的かつ継続的に
社員に発信していくことも重要だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 「多残業体質」抜本的改革を断行 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 企業の取り組みとして注目を集めているのが伊藤忠商事である。総合商社とい
えば長時間労働が当たり前の世界というイメージがあるが、伊藤忠は働き方改革
を含めた「健康経営」を積極的に推進している。
 
 2015〜17年度中期経営計画の人事・総務部の重点施策として「積極的健康増進
策を通じた人材力強化の推進」を掲げ、「健康力商社No.1」を謳っている。
また、2016年6月には「伊藤忠健康憲章」を打ち出し、岡藤正広社長も社員の
「健康力」増強を経営戦略の一つとすることを宣言。働き方改革を推進し、長時
間労働の削減やメリハリのある働き方を実現することで健康力商社ナンバー1を
目指している。

 健康力向上の柱に「働き方改革」を据え、「長時間労働削減」と「メリハリの
ある働き方」を推進している。長時間労働削減の目玉政策の1つが2013年10月に
導入した有名な「朝型勤務」だ。同社の勤務時間は9時〜17時15分までの7時間
15分であるが、これを基本とした上で、夜型の残業体質から朝型の勤務に改め、
法令遵守(36協定)を徹底するのが目的だ。
 朝方勤務の導入の背景として同社の人事担当者は「多残業体質の改善」を挙げる。

「育児や介護などの時間の制約のある社員数が増えている。今後もそうしたライ
フスステージを迎える社員が増えていくなかで女性の活躍支援に向けた環境整備
のためにも残業体質を改善していく必要がある。残業が減らない理由として業務
効率が悪い、残業代が生活費化している、つきあい残業が横行し一人だけ帰れな
いという声もある。社員一人ひとりの意識改革を含めて思い切った対策が必要だ
と考えた」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 実施前に社員説明会、業務効率キャンペーンを展開 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 具体的には深夜勤務(22時〜5時)は禁止し、完全消灯する。20時〜22時の勤
務は原則禁止とし、仕事が残っている場合は「翌日朝勤務」(5時〜8時)へシ
フトする。

 尚、ヨーロッパなど時差のある地域との取引や突発的な対応を行うためにやむ
を得ず20時以降勤務する場合は、上司への事前申請を行うことにした。

 翌日朝勤務(5時〜8時)はインセンティブとして、深夜勤務と同様の割増賃
金(時間管理対象者150%、時間管理対象外25%)を支給。さらに8時前始業社
員には軽食の無料配布を実施している(7時50分以前の始業社員に限り、8〜9
時も上記と同様の割増率を適用)。

 導入にあたって2013年10月1日から6ヶ月間のトライアルを実施している。だ
が、単に上から残業禁止を押しつけるだけでは社員が混乱することになる。長時
間労働の抑制がなぜ必要かを社員に理解してもらうなど意識啓発が不可欠にな
る。10月のトライアル実施前の8月上旬から社員説明会をスタート。国内全店で
計15回開催するとともに、カンパニーごとの組織長説明会を計20回開催している。

 同時に組織ごとに朝方勤務シフトに合わせた業務効率化のキャンペーンを実施
するとともに、経営トップ自ら働き方改革のメッセージを継続的に発信するなど
会社の本気度を示した。さらに朝型勤務実施後も月に1回、役員会(常務会)で
実績報告を行い、各部署の改善度もチェックしている。

 業務効率化キャンペーンの事例では、人事・総務部では社内会議ルールを設定
し、前会議室に掲示した。会議運営ルールは
(1)時間は30分以内、
(2)開始時間厳守(揃わない場合も開始)、
(3)資料の事前配布、
(4)参加者を厳選(責任者+主担当のみ)――の4つを定めている。

 朝型勤務にシフトさせるユニークな取り組みが「110運動」だ。
これは「社内飲み会や会合は1次会夜10時に終える」というもので互いに声を掛
け合って徹底しようという運動だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 22時以降勤務者ゼロ、残業手当7%の減少 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 こうした取り組みの結果、実際に成果も上がっている。導入前は20時以降に約
30%の社員が残っていたが、2年後には約6%に減少している。22時以降は約
10%残っていたが、もちろん今はゼロである。一方、8時以前の出勤者が導入前
の約20%から約40%に増えている。導入前の時間外勤務時間の月平均は約50時間
だったが、2年後に約12%減少。
残業手当も導入前に比べて約7%も減少している。

 無料朝食を約1000人が利用しているため月間の残業手当を含めたコストは4%
の減少に留まるが、社員の満足度は高まっている。

 社員のエンゲージメント(会社に対する貢献度意識)調査では、2014年に主体
的に会社に貢献したいという社員が78%、会社が社員を生かす環境を整えている
と思っている社員が67%に達し、前回の2010年の調査よりいずれも5%伸びてい
る。エンゲージメントは日本の上場企業の平均より19%、社員を生かす環境では
9%も高いという。

朝型勤務シフトが成否を握る要件として伊藤忠は
(1)経営トップのリーダーシップ、
(2)組織長への腹落ち(組織運営のキーパーソンへの啓発、
(3)コストカットと思わせない発想、
(4)業務の合理化を合わせて実施
 ――の4つを挙げている。
                            (溝上 憲文)


=============================================


◆高まる外国人労働力への関心

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 外国人労働力への期待 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 政府は、今回の「働き方改革」で、女性や高齢者の活用を大きな柱に据えてい
るが、その背景には労働力需給の逼迫がある。しかし、女性活躍もだいぶ進んで
きており、労働力の年齢構成の特徴である「M字型カーブ」も20代後半の上昇が
著しく、かなり欧米型のフラットな形に近づいてきた。また、60歳台以上の高齢
者の活用も、体力等の個人差もあって必ずしも一律の雇用延長を求めることはで
きない。

 そうしたことから考えれば、これら女性や高齢者に対する労働力の給源として
の期待も、いずれ限界点に来ることも想定しておかなければならない。それが我
が国の経済成長の大きなボトルネックとなるのではないかという議論も出てい
る。そうなれば、その先はロボットか外国人の活用ということになるが、前者は
まだ開発普及の時間がかかる。

 そこで、グローバル化の帰結としての「人の交流の自由化」という点も加わっ
て、外国人労働者の門戸開放論がまた活発になってきた。我が国は長く「単純労
働力は」受け入れない」という方針を貫いてきている。その一方、高度の専門技
術者は積極的に受け入れてきたが、その範囲は限定的で中間的なレベルの技能者
は対象外となっており狭い。政府においても、与党内で、この受け入れ範囲を拡
大すべきという議論がはじまっているが、今回「働き方改革実現会議」の論点の
一つともなることでその結論が急がれることとなろう。

 これまでは、既に技能実習制度によって、実習生を一時的な労働力として活用
することが行われてきたが、その一層の活用と同時に、労働ビザによる在留資格
の拡大も大きな焦点となる。現に、労働力の確保が追いつかない介護分野におい
て、技能実習生としての受け入れや、介護福祉士資格保持者の就労の容認などが
検討されている。

 こうした動きに拍車をかけるものとして、今臨時国会に継続審議案件として上
程されている「技能実習法案」と「入管法改正法案」の動向が注目されている。

いずれも今国会の会期中に成立を目指されている。(10月末現在審議中)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 技能実習制度の現状と見直し ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そもそも外国人技能実習制度とは、諸外国の青壮年労働者を一定期間産業界に
受け入れ、産業上の技能等を修得してもらうという仕組みである。すなわち、先
進国の進んだ技能・技術・知識について、技能実習生を通じて移転を図り、途上
国等の経済発展・産業振興に資することを目的とするのが本来の趣旨である。こ
のように、この制度の趣旨は国際貢献という点にあるが、最長3年の期間におい
て、技能実習生が雇用関係の下で、就労を通じて産業・職業上の技能等を修得・
習熟をするという形を取ることから、その間は一時的な労働力としての活用が図
られているという性格も併せ持っている。

 事実、人材不足が深刻化している産業・企業にとっては、有力な人材確保の方
途として期待されるが、その一方では外国人技能実習制度が事実上の(専門職人
材以外の)外国人労働力導入の方便となっているという批判もある。また、技能
実習生が低賃金で就労させられたり、労働関係法令の違反状態に置かれたりして
いるような事案も生じており、これを問題視する意見も少なくない。このため、
今後とも外国人技能実習制度を発展させていくには、まずその適正な運用が張ら
れるような体制整備が不可欠であり、
以下のような内容の「技能実習法案」(法務省と厚生労働省の共同所管)が国会
に提出されている。

------------------------------------------------------------------------

(1)確実な技能等の修得・移転という制度趣旨・目的の徹底を図るべく、技能
実習の基本理念及び関係者の責務規定を定めるとともに、技能実習に関し基本方
針を策定する。
(2) 技能実習生ごとに作成する技能実習計画を認定制とし、実習実施者につい
て、届出制とする。また、監理団体を許可制とし、管理の適正化を図る。
(3)公的機関による監視体制の強化のため、事務を専門的に担う機構を認可法
人として新設し、技能実習計画の認定事務等のほか、技能実習生に対する相談・
援助等の業務を行う。
(4) 技能実習生に対する人権侵害行為等について、禁止規定を設ける。

------------------------------------------------------------------------

 特に重要な点は、これらの「適正化」が進められることを前提にしたうえで、
実習期間の拡充が図られていることである。すなわち、優良な実習実施者及び監
理団体に限定して、現行制度で最長3年間の技能実習期間を更に2年間延長する
ことを可能とすることであり、この結果、最長5年間の実習期間が成立すること
になる。この場合の「優良」である条件としては、法令違反のないことはもちろ
んであるが、技能実習評価試験の合格率、指導・相談体制等について一定の要件
を満たすなど、実習生の技能向上に対する貢献度が大きく求められていることに
留意すべきであろう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■■■ 介護人材の受け入れの議論 ■■■
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 一番の焦点となっているのは、介護分野における外国人の人材受け入れであ
る。これについては、厚生労働省の
「外国人介護人材受入れのあり方 に関する検討会」においても、今回の技能実
習法案の成立を前提にして、技能実習制度を介護職種に拡大することが方針とし
て示された。しかし、このことは技能実習制度を初めて対人サービスにまで広げ
る初めての職種追加の検討となることに留意しなければならない。それは、介護
のサービスの質を担保するとともに、利用者の不安を招かないようにするという
点でも重要だ。そのため、コミュニケーション能力の問題や、対人関係から生じ
るトラブルやハラスメントなどの問題などへの対応が不可欠だといえよう。

 とりわけ日本語によるコミュニケーション能力をどの程度求めていくかは大き
な焦点である。前述の検討会でも、業務内容や到達水準との関係を踏まえて、日
本語能力試験「N3」程度を基本としつつ、業務の段階的な修得に応じ、各年の
業務の到達水準との関係等を踏まえ、適切に設定する必要があるという結論と
なった。ただし、こうした議論の帰結として、一人きりで仕事をすることになる
訪問系への受け入れについては認めないとされている。

 EPAによる介護福祉士受験者の受け入れについても、試験合格者の訪問介護
事業への就労を認めるべきという検討結果も示されているが、更に現在でも認め
られている専門養成施設への就学の枠を活用して、試験合格者の就労を幅広く認
めて行こうという動きもある。建設、運輸など労働力不足感が強い分野では、外
国人労働力に期待する声も高まっている。いずれにしても、まず介護分野が今後
の方向付けの一つの試金石ともなっているといえるのではないか。
                            (北浦 正行)


編┃集┃後┃記┃
━┛━┛━┛━┛********************************************************


 今年も残すところ2か月を切り秋の気配も一層深まりました。

先月の24日、日本経済新聞(朝刊1面)の「春秋」に、「荘子」の逸話で『機械
を使いだすと、必ず機械に頼る仕事が増える。増えると頼る心「機心」が生じ、
とらわれる。「振り回されるのはいやだ。」』と記載がありました。

 2016年「過労死白書」では、1年間のうち1か月の時間外労働時間が最も長
かったフルタイムの月間時間外労働時間の企業の割合について、月80時間超えと
回答した企業が全体の22.7%でした。
 「働き方改革」で長時間労働の是正が求められている中、大手広告会社「電
通」の新入社員の月100時間を超す時間外労働による過労自殺が労災認定されま
した。
このニュースに接したとき、多くの方は
「えー、また。教訓が生きていないの・・・。」
と思われたことでしょう。
 

長時間労働による過労死や精神疾患発症の防止を求めるために、2000年3月の
「電通事件」の判例を用いて企業のリスクを説明しています。
これを機会に、長時間労働体質を速やかに改善しましょう。 (白石)


◆◆2000年3月24日最高裁第2小法廷判決「電通事件」◆◆
使用者は、雇用する労働者に対して業務の指示・管理をする権限を有するか
ら、・・・
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損
なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わ
り労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の注意義務の
内容に従って、その権限を行使すべきことになる。


-------------☆ ☆ ☆ --------------

発行者 社会保険労務士法人雇用システム研究所
代表社員 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今月のメールマガジン第175号はいかがだったでしょうか。
お楽しみいただければ幸いです。
今後もさらに内容充実していきたいと思います。
ご感想は info@koyousystem.jp にお願いします。

「こんな記事が読みたい!」というリクエストも、遠慮なくどうぞ。

次回の配信は12月初旬頃情報を送らせて頂きます。

e-mail: info@koyousystem.jp

[過去のメルマガ随時更新]⇒ http://www.koyousystem.jp
=============================================
メールマガジンの配信が不要な方は、お手数ですが、
こちらhttp://www.koyousystem.jp/mail_magazine.html から
配信停止を行って下さい。


社会保険労務士法人
雇用システム研究所
雇用システム研究所

〒162-0825
東京都新宿区神楽坂2-13
        末よしビル4階
TEL 03-5206-5991
FAX 03-5206-5990