新型コロナウイルス影響下の事業継続と人事管理(5)
〜働き方の変更による業務の効率化を模索する企業〜
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┃\/┃ ★雇用システム研究所メールマガジン★
┗━━┛ 第222号
2020/10/01
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吹く風が秋を感じさせます。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
雇用システム研究所メールマガジン第222号をお送りします。
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□ 目次 INDEX‥‥‥‥‥
◆新型コロナウイルス影響下の事業継続と人事管理(5)
〜働き方の変更による業務の効率化を模索する企業〜
■テレワークで生産性が低下。コミュニケーションリスクも顕在化
■Web会議ツールを使いこなせない「オンラインデバイド」が業務の支障に
■「部下の行動が見えない」人事評価の課題解決の取り組みと懸念
■ブームの「ジョブ型人事制度」導入への不安
(以上執筆者 溝上 憲文)
■コロナ・ショックとの戦い――雇用・企業経営も正念場へ
■ウイズ/アフター・コロナで「テレワーク」は定着するか
(以上執筆者 荻野 登)
編集後記(白石多賀子)
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新型コロナウイルス影響下の事業継続と人事管理(5)
〜働き方の変更による業務の効率化を模索する企業〜
新型コロナウイルスの感染に伴う出社制限が企業経営に大きな影響を与えている。
在宅勤務を軸とする働き方に変わり、コロナ前は定時に全員揃って出社していたが、
今は出社する社員も半分、しかも時差通勤で出社も退勤もバラバラになり、
職場の風景も大きく変わってしまった。
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■■■ テレワークで生産性が低下。コミュニケーションリスクも顕在化 ■■■
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事業を継続するためにテレワークに移行したのはいいが、
一方で生産性が低下しているとの各種調査もある。この理由について
日本テレワーク協会の田宮一夫専務理事はこう語る。
「準備不足の状態で一気にテレワークに入ったことにも原因がある。
総務省の2018年度、19年度の調査ではテレワークを活用すると時間あたりの生産性が
1.5倍高まるという調査がある。
しかし、コロナ以降の調査では生産性が落ちたという人が6割程度あった。
その背景にはテレワーク環境の整備などの準備不足に加えて、出社する人が激減し、
以前の週何回かテレワークするという状況とは違うことにある。
大事なことはそれを踏まえ、在宅勤務で良かった点や問題点を総合的に検証し、
改善しながら継続していくことだ。例えば出社と在宅勤務を併用し、
業務プロセスを見直すなど問題点の改善をしていくことが生産性向上につながる」
通信環境を含めたどんな場所でも仕事が可能なインフラ整備も大事であるが、
生産性の低下には上司と部下のコミュニケーションの減少にも一因がある。
上司と部下が顔を合わせる機会が減り、頻繁にコミュニケーションができなくなった。
建設関連業の人事部長は業務の生産性に格差が生じていると語る。
「日頃から課長と部下がよくコミュニケーションをとって連携し、
報・連・相がしっかりできている部署は支障なく在宅勤務に移行できている。
一方、出社しても上司や先輩と余計なことは話さないタイプの社員もいるが、
在宅になるとメールはできても、電話をするのはハードルが高くなる。
その結果、作業に余計に時間がかかるし、チームの連携にも支障を来している
ケースがあるようだ」
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■■■ Web会議ツールを使いこなせない
「オンラインデバイド」が業務の支障に ■■■
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会議はWebに変わり、ITツールを駆使することが求められるが、管理職の中にも
ITが苦手な人もおり、職場ではオンラインデバイド(格差)による障害も発生している。
「会議をオンラインでやるようになり、操作がわからず、ついていけない管理職もいる。
たとえばZOOMでも共有ファイルを出す必要があるのに出せないとか、
うっかり消してしまったりする。あるいは今日はオンライン会議の日であることを忘れ、
実際に会議室に行くと、誰もいないので『何で皆いないんだ』と言ったそうだ。
若い世代は何の抵抗もないが、オンラインスキルが低い中高年もいるために仕事の効率が
悪いと考える人もいる」(人事部長)
また、会議での議論など進捗状況によって企画書などの資料は随時更新する必要がある。
しかし広告業の人事部長は「ファイルは第一稿、二稿と変わり、上書き保存すれば大丈夫だか、
ちゃんと更新していないので一体いつのファイルかわからなくなる人もいる。
全員がオンライン上で同じファイルを見ながら議論し、それはいいね、となればそのたびに
画面を修正し、最後に完成形を全員が見て保存する。
そうすれば会議の効率も高まるが、その作業に手間取っている人がいると、
議論が中断してしまう」と、指摘する。
実際にWeb会議で問題が生じている企業も少なくない。
IT企業のIIJが情報システム部門の担当者に実施した調査(6月23日〜29日、269人)
によると、ITシステムの課題で最も多かったのは「Web会議ツールの使い勝手や使い方の
周知」で100人以上が挙げている。
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■■■ 「部下の行動が見えない」人事評価の課題解決の取り組みと懸念 ■■■
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また、テレワークによって部下の行動が見えにくくなり、
日本的人事評価の特徴でもある行動評価やプロセス評価が難しいとの声もある。
それを解決するための取り組みも始まっている。その1つが“仕事の見える化”だ。
前出の広告業では業務効率の見直しの一環として「タスクの見える化」のシステム
開発に着手している。
Web会議などITツールを駆使し、管理職と部下が話し合って
業務を週単位・1日単位で個人がやるべきタスクがシステムに落とし込まれる。
そして進捗状況が日々確認され、全員が同じ画面で共有する仕組みである。
社内のプロジェクトチームを組織され、人事部長も加わっている。
「情報システム部門を中心に新たなシステムを構築中だ。実現すれば部署の
全員の仕事が“見える化”され、在宅でも日々の仕事ぶりやプロセスもわかるし、
日々の成果物も明確になる。問題点があればチャットで上司が指示することも
可能になる。
この仕組みだと、これまで『仕事をしています』と言って、何となくごまかしていた
作業も一目瞭然となる。これまで難しかった残業管理もやりやすくなるかもしれない」
(人事部長)。
ただし「この仕組みによって情報システム部門の役員は生産性が上がると言うが、
効率化が進む一方で社員はいわば監視される状態になる。息抜きもなくなり、
個人的にはメンタル不調者が出てくるのではないか」と、危惧する。
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■■■ ブームの「ジョブ型人事制度」導入への不安 ■■■
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一方、職務範囲が明確でテレワークと相性がいいとされる、
いわゆるジョブ型人事制度を導入する企業も相次いでいる。
今年の7月1日、日本テレワーク協会は「経営・人事戦略の視点から考えるテレワーク
時代のマネジメント改革」と題する研究レボートを発表。
その中で「日本型の人事制度を改め、欧米で主流の職務範囲が明確で成果に応じて
評価されるジョブ型人事制度への移行」を提唱している。
その理由として「業務の可視化を推し進め、働く場所の自由度をあげるテレワークは、
職務範囲があいまいで、転勤など働く場所の拒否権がない『メンバーシップ型』の
人事制度とは馴染みにくい面がある」と指摘している。
実際に米系人事コンサルティング会社マーサー日本法人には、
コロナ以降ジョブ型に関する企業の問い合わせが4〜5倍に増えているという。
しかし「人材活用を含めた長期的人材戦略を持たずにジョブ型の導入が目的化している
企業も少なくない。安易な仕組みの設計に走ることは大きなリスクを招く」
(同社コンサルタント)と指摘する。ジョブ型人事制度導入には各社で意見も分かれる。
医療・福祉業の人事部長は「職務・職責が明確になれば、ある部分については
マネジメントがしやすくなり、評価もやりやすい。マネジメントの力量にもよるが、
職務を超えたチャレンジを要求したり、本人がやりたいことをしづらくさせる可能性が
あり、賛成できない」と語る。
また、建設関連業の人事部長は「管理職以上は職責・職務がある程度明確であり、
可能かもしれないが、一般社員は新入社員を含めて育成を含めた人事異動が困難になる」
(建設関連業人事部長)と、懐疑的だ。
コロナ禍で働き方が大きく変わった。自社の事業運営に適したITツールの導入や
人事制度をどのように構築していくべきなのか、多くの企業が模索している。
(溝上 憲文)
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■■■ コロナ・ショックとの戦い――雇用・企業経営も正念場へ ■■■
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9月末で今年度の前半が終わった。この半年は日本だけでなく、
世界中がコロナとの戦いに明け暮れた。
新型ウイルスという自然界からの脅威に対して、人間は経済・社会活動の抑制・停止
という形で戦いを挑み、自ら生み出した不況に呻吟している。
バブル崩壊、アジア経済危機、リーマン・ショックなどの過去の不況と異なるのは、
今回のコロナ・ショックによる不況は予期できなかったことではなく、
経済への大打撃を承知の上で人為的に生み出された点にある。
この人為的に生み出された不況の影響は、時間の経過とともに深刻さを増してきた。
現時点での雇用及び企業経営面での影響度合いをデータで確認してみる。
厚生労働省によると9月25日時点で発表した新型コロナウイルス感染拡大に関連する
解雇や雇い止めが、この1カ月で約1万人増えて6万923人となった。
業種別では製造業が1万180人と最多で、初めて1万人を突破した。
このデータはハローワークや労働局への事業所からの報告を基にしているため、
解雇・雇い止めの実態というよりも趨勢を示しているものとみた方がいいが、
増加のトレンドに歯止めがかかっていないことは明らかだ。
とはいえ、欧米に比べてわが国の完全失業率が3%程度と低く抑えられている。
その背景には、高止まりする休業者の存在とこの間大きく減少した女性の
就業者数がある。
緊急事態宣言下の4月には597万人に上っていた休業者数は、7月時点では
220万人にまで減少しているものの、リーマン・ショック後に最大だった約150万人を
大きく上回っている。
休業者の雇用維持に当たっては、雇用調整助成金が活用されていることが大きい。
9月25日時点の支給決定額は累計で1兆5,265億円となり、
リーマン・ショック時の実績(2009年度6,538億円、2010年度3,249億円)を
はるかに超えている。
この間、7月になると男性の雇用者数は増加に転じたが、
女性の雇用者数は減少し続けた。
特に女性の非正規の職員・従業員の減少が目立っている。
リーマン・ショック時は、外需が大きく減ったため、男性の多い製造業での
雇用調整が中心だった。一方、今回のコロナ・ショックでは、宿泊・飲食、生活・娯楽等
のサービス業でのダメージが大きく、ここで働いている人の割合が高い女性の雇用に
打撃を与えている可能性が高い。
学校・保育園の休校・休園などで家庭を離れにくくなっている実情が
反映されているかもしれない。
「アベノミクス」下で改善した雇用を下支えしたのが、
こうした女性の非正規雇用だったが、ここに今回の不況は大打撃を与えている。
10月1日から自己都合により離職した人が、雇用保険の求職者給付を受給する場合の
給付制限期間が、これまでの「3カ月」から「2カ月」(5年間のうち2回まで)
に短縮される。今後、自己都合で離職せざるを得ない女性への就業継続に
資することを期待したい。
一方、製造業での解雇・雇い止めの増加も大きな懸念材料となる。
東京商工リサーチの調査によると、2020年の上場企業の早期・希望退職者募集が
9月14日時点で、1万100人と1万人を突破した。
募集企業数は前年の1.7倍増の60社に達し、リーマン・ショック後の2010年の
85社に迫る勢いとなっている。
業種別では、アパレル・繊維製品の9社が最も多いが、電機機器(8社)、
自動車などの輸送用機器(6社)の製造業が続く。
さらに、同社調査によると1〜8月に全国で休廃業・解散した企業は3万5,816件に上り、
このペースが続くと、年間5万3,000件を突破する見込みだという。
自営業などを支える持続化給付金の効果が長続きしないことを考えると、
転・廃業や事業譲渡を含めた新たな支援策も必要になる。
人為的に生み出された不況だけに、後半年度は感染防止対策と
経済・社会活動の回復をいかに両立させていくかについて、
官民の知恵が試される局面を迎えたといえそうだ。
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■■■ ウイズ/アフター・コロナで「テレワーク」は定着するか ■■■
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テレワークはコロナ禍によって導入機運が一気に高まった。
しかし、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(個人調査)によると、
5月時点でテレワークを行っていた人の割合は約3割に達していたが(内閣府調査では34.5%)、
8月になると18.3%まで縮小していた。
緊急事態宣言の解除などによる経済活動の再開で、感染拡大前の日常に戻って
しまった職場が多かったといえる。
その一方で、感染拡大前にはテレワークを行っていない割合が73.1%だったが、
7月の最終週には51.2%に減少しており、新たな日常としてテレワークを導入した
ケースが増加している様子がうかがえる。
従前からテレワークを取り入れていた企業では、その応用問題として対応が可能
だったかもしれないが、未経験の企業にとっては、システム導入とセキュリティ管理、
労働時間・進捗管理、コミュニケ―ンの確保、評価のあり方といった課題に直面する
ことになった。
顧客に接したり機械操作が必須な現場を抱える職場では、そもそもテレワークに
適した仕事がないことになる。
また、こうした課題を短期間で解決することは不可能なため、導入を逡巡したり、
着手できなかった企業も多い。
とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見通せず、自然災害などに備える
事業継続計画(BCP)、男女を問わずワーク・ライフ・バランス(WLB)への配慮が
ますます求められるなか、テレワークを実施するための環境整備は避けて通れない
課題となりつつある。
こうした実情を踏まえて、厚生労働省では8月に
「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」を立ち上げ、
「労働時間管理の在り方」
「作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルス」
「対象者を選定する際の課題」などを議論している。
現行のガイドラインのあり方について検討し、年内には一定のとりまとめを予定している。
こうした政府の動向を踏まえて、労働組合の全国組織である連合は9月17日にモデル
「テレワーク就業規則」(在宅勤務規程)を含む、
「テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」を決めた。
それによると、テレワークは重要な労働条件である「勤務場所の変更」にあたるため、
目的、対象者、手続き、労働諸条件の変更事項などについて労使協議を行い、
労使協定を締結した上で就業規則を作成する。
さらに情報セキュリティ対策や費用負担のルールなどについても
規定すべきだとしている。
このなかで注目されるのが、自宅等でテレワークを行う際の情報機器作業については、
厚労省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に準じた
作業環境を確保する必要があり、環境整備に要する費用は使用者が負担し、
また毎月発生するランニングコスト(通話料、インターネット接続費用、水道光熱費など)は、
毎月支払う手当として支給することが望ましいとしている点。
さらに、長時間労働等を行う労働者への注意喚起として欧州などで普及しつつある
「つながらない権利」(会社は勤務時間外の従業員に対し緊急性が高い場合を除き、
電話、メール等の他の方法で連絡を行わない)への配慮を求めている。
いずれにしても生産性向上や人材獲得策の一環として、
企業規模を問わずテレワークを定着させる必要性は高まっている。 (荻野 登)
編┃集┃後┃記┃
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富士山の初冠雪が昨年より24日早く、
これから青空に映える雪化粧で一段と美しさが増します。
労働法第20条による正社員と非正規社員の不合理な格差を禁じた訴訟で、
最高裁第三小法廷は今月13日に大阪医科薬科大学の賞与と東京メトロ子会社の
退職金、15日に日本郵便の期間雇用者の判決が言い渡されます。
今年4月から改正された短時間・有期雇用労働法第8条および第9条により、
均衡待遇・均等待遇が義務化されました。(中小企業は2021年4月)
企業は特に退職金に対して厳しく受け止めており、
今度の判決が一定の方向性を持つと認識しています。
コロナ禍の中、インフルエンザ到来の時季です。
3密を避け、マスクとうがい・手洗い、さらに十分な睡眠をとり、
日々気をつけましょう。 (白石)
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発行者 社会保険労務士法人雇用システム研究所
代表社員 白石多賀子 東京都新宿区神楽坂2-13末よしビル4階
アドレス:info@koyousystem.jp
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今月のメールマガジン第222号はいかがだったでしょうか。
お楽しみいただければ幸いです。
今後もさらに内容充実していきたいと思います。
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